このページの要点
- 顧客の情報は、公開済み・非公開の事業情報・個人を識別できる情報・アカウントの入口の情報の4区分に分け、区分ごとに入力の可否を決める。
- AI生成の台本や画像は、人の創作的寄与が乏しいと著作権が生じない可能性がある。譲渡条項は「著作物に当たるもの」を前提に書く。
- AI利用の申告は、包括同意型・納品時申告型・案件ごとの承認型から選び、記録は受託者側で保存して求めに応じて提示する形が運用に乗る。
- 全面禁止や「すべて保証」の条項は実態に合わない。確認の責任、承諾の方法、外注先への同一水準の義務をセットで書く。
最初に結論:AI条項は「使うか使わないか」ではなく、「何を入れてよいか・何を申告するか・誰が確かめるか」を決める条項です
SNS運用代行の現場では、投稿の台本やキャプションの下書き、リールの構成案、サムネイルや投稿画像の素材づくり、コメント返信の文案、分析レポートの要約などに、生成AI(文章や画像を自動で作り出すAIサービス)が入り込んでいます。契約書に「AIを使ってよいか」だけを書いても、実際に揉めるのはその先です。顧客から預かった売上データやDMの内容をAIに入力してよかったのか。AIが作った画像が他人の作品に似ていたとき、誰が責任を負うのか。AIを使ったことを顧客に伝えていなかったのは契約違反なのか。
実務で見られる条項は、大きく3つの問いに答える形に整理できます。1つ目は入力の問い(顧客の情報のうち、どこまでをAIに入れてよいか)、2つ目は生成物の問い(できあがった台本や画像の権利と責任をどう分けるか)、3つ目は申告の問い(AIを使った事実をいつ、どの粒度で顧客に伝えるか)です。以下では、この3つを順に扱い、誤りやすい書き方とその直し方、ヒヤリングで確認しておくこと、新しく書き起こした条文例までを説明します。
なお、AIを使うこと自体を一律に禁止する条項は、実際の業務に合わなくなりやすい点に注意が必要です。翻訳や誤字の校正、画像の明るさ補正や背景の切り抜きにも、すでにAI機能が組み込まれているためです。禁止か許可かの二択ではなく、「入れてよい情報の範囲」「申告の仕方」「確認の責任」を決める方が、運用に耐えます。
3つの問いと、契約で決めること
| 問い | 典型的な場面 | 決めること |
|---|---|---|
| 入力の問い | 顧客の売上表、問い合わせのDM、顧客リストをAIに貼り付けて分析・要約する | 入力してよい情報の区分、使うサービスの条件、事前承諾の要否、事故時の報告 |
| 生成物の問い | AIで台本や投稿画像を作り、そのまま、又は手直しして納品する | 権利の扱い、第三者の権利を侵害していないかの確認、責任の分担、損害の範囲 |
| 申告の問い | 「この台本はAIの下書きです」と伝えるか、伝えないまま納品する | 申告の対象と時期、記録の保存、顧客がAI利用を止めさせられる場面 |
著作権の一般論(誰に権利が残るか、譲渡の書き方)はSNS運用代行の著作権のページで扱っています。このページでは、AIが関わることで新しく生じる論点に絞ります。
運用代行の仕事のどこにAIが入り込むのか:場面を洗い出してから条項を書く
AI条項が実態とずれる最大の原因は、契約書を書く人が「AIの利用」を1つの行為として扱ってしまうことです。運用代行の仕事の中では、AIの使い方は場面によって、入れる情報も出てくるものも、リスクの種類も違います。条項を書く前に、場面を洗い出しておきます。
運用代行でAIが使われる場面と、リスクの違い
| 場面 | AIに入れるもの | 出てくるもの | 主なリスク |
|---|---|---|---|
| 台本・キャプションの下書き | 顧客の商品説明、過去の投稿、口調の指定 | 文章案 | 事実と違う記載、他の投稿と酷似した表現、誇大な表現 |
| 投稿画像・サムネイルの生成 | 指示文、参考にしたい画像 | 画像 | 既存の作品や人物への類似、実在しない利用者像の使い方 |
| コメント・DMの返信案 | 利用者のコメントやDMの文面(氏名が含まれることがある) | 返信文案 | 個人情報の入力、誤った案内、トーンの不一致 |
| 分析・レポートの要約 | インサイト(アカウント分析)の数値、売上や来店数、顧客の内部資料 | 要約・提案 | 顧客の非公開情報の流出、数値の読み違い |
| 外注先の制作 | 受託者が渡した指示書や素材 | 制作物 | 外注先が勝手にAIを使い、受託者が把握していない |
顧客の情報をAIに入力してよいのか:個人情報保護法の整理と、入力区分の作り方
結論から言うと、顧客の情報を一律に「入力してはならない」と書くのも、一律に「入力してよい」と書くのも、実務には合いません。情報の性質ごとに、入力の可否を分けて書きます。区分の土台になるのが、個人情報保護法の考え方です。
個人情報保護法では、氏名やアカウント名などから特定の個人を識別できる情報が「個人情報」で、これを検索できるように体系的にまとめたもの(顧客名簿やDM管理表など)に含まれる個人情報が「個人データ」です(同法16条3項)。事業者は、利用の目的をできる限り特定し(17条1項)、本人の同意なくその目的の範囲を超えて取り扱ってはならず(18条1項)、個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければなりません(23条)。個人データの取扱いを他の者に委託するときは、委託先に対する必要かつ適切な監督が求められます(25条)。
運用代行にこれを当てはめると、2つの立場が重なることが見えてきます。顧客は、自社のフォロワーや問い合わせ客の情報について、個人情報取扱事業者です。受託者がDMの内容や顧客リストを預かって処理するなら、顧客からみて受託者は委託先になり得ます。そして受託者が、その情報を第三者のAIサービスに入力すると、今度は受託者がAIサービス提供者に取扱いを任せる(又は提供する)形になります。つまり、顧客から受託者へ、受託者からAIサービスへ、と情報の流れが二段になり、それぞれの段で本人の同意や利用目的との関係を説明できなければなりません。
ここで押さえておきたいのが、第三者提供との関係です。取り扱っている個人データを他の者へ渡す場合、渡す前に本人から同意を得ておくのが原則とされています(27条1項)。ただし、利用目的の達成に必要な範囲で取扱いを委託することに伴って提供される場合、提供を受ける者は「第三者」に当たらないとされています(同条5項1号)。AIサービスへの入力がこの委託に当たると説明できるかどうかは、入力した情報がそのサービスの提供者によって、提供者自身のモデルの学習などの目的に使われるのかどうかに左右されます。提供者が自らの目的で使える条件になっていると、「委託の範囲内の取扱い」と説明しにくくなります。入力した情報を学習に使わない設定になっているか、契約条件がどうなっているかの確認が、入力を認める出発点です。
さらに、AIサービスの提供者が外国にある場合や、サーバーが外国にある場合は、外国にある第三者への提供の制限(28条)の検討が別に必要になります。個人データの入力を前提にするなら、サービスの所在国と取扱いの条件を、事前に顧客へ示しておくことが欠かせません。
顧客の情報の入力区分の例(運用代行で使いやすい4区分)
| 区分 | 具体例 | 入力の扱い(例) |
|---|---|---|
| A 公開済みの情報 | 公開中の投稿、公式サイトの商品説明、公表済みの価格 | 原則として入力可。ただし、他人の著作物(他社の投稿の転載など)は含めない |
| B 顧客の非公開の事業情報 | 未発表の新商品情報、売上や来店数の実数、内部の営業資料 | 顧客の事前承諾(包括でも個別でもよい)がある場合に限り入力可。入力するサービスを限定する |
| C 個人を識別できる情報 | DMやコメントの本文と送信者名、顧客名簿、予約者の情報、出演者の氏名 | 原則として入力しない。やむを得ず入力するなら、氏名等を消して(マスキング)から入力し、必要なら顧客の書面承諾を得る |
| D アカウントへの入口の情報 | ID・パスワード、認証コード、連携用のキー | いかなる場合も入力しない |
区分の名称や入力の扱いは、顧客の業種と運用の実態に合わせて調整します。医療・美容・子ども向けサービスのように、機微な情報が混じりやすい業種では、C区分の扱いをより厳しくします。
区分を作るときに見落とされやすいのが、「氏名を消せば個人情報ではなくなる」という思い込みです。氏名を消しても、顔写真、ニックネーム、居住地、購入履歴などの組み合わせで、特定の個人を識別できる場合があります。マスキングの条項を置くなら、「氏名等」ではなく「個人を識別できる情報(他の情報と容易に照合でき、それにより識別できるものを含む)」と書いて、範囲を広めに取っておく方が安全です。
顧客の情報のAIへの入力に関する条項(新しく書き起こした例)
1受託者は、本業務のために顧客から提供を受けた情報を、第三者が提供する生成AIサービス(以下「AIサービス」という。)に入力する場合、別紙に定める入力区分に従うものとする。
2受託者は、個人を識別することができる情報及びアカウントへの入口となる情報(ログインのための情報、認証コード、連携用の鍵を含む。)を、AIサービスに入力しない。ただし、委託者が個別の案件ごとに書面又は電磁的方法で承諾した場合は、承諾の範囲で、個人を識別することができない形に加工したうえで入力することができる。
3受託者は、AIサービスに情報を入力する前に、入力した情報がそのサービスの提供者によって、受託者の指示した処理以外の目的(提供者のモデルの学習を含む。)に利用されない設定又は契約条件であることを確認する。確認できないAIサービスには、委託者の非公開の事業情報を入力しない。
4受託者は、AIサービスへの入力に起因して委託者の情報が漏えいし、又はそのおそれがあることを知ったときは、遅滞なく委託者に報告し、拡大を防ぐために必要な措置を講じる。
第3項は「確認する」という行為義務にとどめ、特定のサービス名や「学習されないことの保証」までは書いていません。サービスの仕様や条件は変わるため、条文に固有名詞を入れると、契約が古くなります。
台本や画像をAIで作るとき:権利と責任を、納品の前後で分けて考える
AIが作った台本や画像の権利と責任は、「できあがる前」「できあがった物」「使った後」の3つの段階に分けると整理しやすくなります。
まず、できあがる前の段階です。AIの開発や学習のために他人の著作物を使うことについては、著作権法30条の4が、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用を、一定の範囲で認めています。ただし、これは主にAIの学習段階に関わる規定で、運用代行者がAIを使って投稿物を作る場面とは別の段階の話です。条文があるから何をAIに読み込ませてもよい、という理解は誤りです。
次に、できあがった物です。著作権法上の「著作物」は、思想又は感情を創作的に表現したものです(同法2条1項1号)。文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」(令和6年3月)は、人がAIを道具として使い、創作的寄与があれば著作物になり得る一方、人の創作的寄与が乏しいものは著作物にならない可能性があるという整理を示しています。つまり、プロンプト(AIへの指示文)を一言入れただけで出てきた画像を納品して「著作権を譲渡します」と書いても、渡せる排他的な権利がそもそもない場合があり得ます。譲渡の条項を置く場合は、「著作物に当たるものに限る」という前提と、権利が生じない場合でも顧客が自由に使える旨を、あわせて書いておくと食い違いを防げます。
最後に、使った後です。AIが出力した画像や文章が、既存の作品とよく似ていて、しかも既存の作品に依拠していたと認められると、複製権(同法21条)などの侵害になり得ます。侵害された権利者は、差止めを求めることができ(同法112条)、損害賠償の請求(民法709条)もあり得ます。そして、権利者から請求を受けるのは、実際に投稿した顧客のアカウントと、それを作った運用代行者の双方です。AIの出力を見て「似ていない」と感じるだけでは足りず、特定の他人の投稿や作品を参考として入力した場合には、依拠が認められやすくなる点に注意が必要です。
- 他人の作品を入力しない:他社の人気投稿のスクリーンショットを読み込ませて「この雰囲気で」と指示することは、依拠を自ら作り出す行為になります。入力してよい参考資料は、顧客自身のもの、又は権利者の利用許諾があるものに限ります。
- 実在の人物に似せない:芸能人、インフルエンサー、顧客の競合の関係者に似せた画像や声を作ると、肖像やパブリシティの問題になり得ます。AIで作った人物を使うときも、実在する特定の人に見えないかを確認します。
- 実在しない利用者像の使い方:AIで作った人物の画像に「実際のお客様の声」という説明を付けると、事実と異なる表示になります。体験談やビフォーアフターのような、実績を示す表示は、実在の事実に基づくものだけにします。ステマ規制のページで解説している、広告であることを隠す問題とは別に、事実と異なる表示そのものの問題があります。
責任の分け方も、場面で変わります。受託者がAIを使って作った物の内容に誤りや権利侵害があれば、受託者は業務を依頼どおりに行わなかったとして、債務不履行の責任を問われ得ます(民法415条)。運用の事務を処理する準委任の部分では、受託者は善良な管理者の注意をもって処理する義務を負います(民法644条)。AIを使うこと自体が注意義務に反するわけではありませんが、出力を確かめずに投稿へ回し、誤りがそのまま公開された場合には、注意義務を尽くしたかが問われます。逆に、顧客が指定した表現や、顧客が提供した素材をAIに入れた結果として生じた問題まで、受託者が全部負う条項は重すぎます。誰の指示・誰の素材に由来するかで責任を分けておきます。
AIを使ったことは、顧客に申告しなければならないのか(外注先の利用も含めて)
契約に書かない限り、受託者が顧客へAI利用を申告する義務が、一般的な法律上の義務として当然に生じるとは言い切れません。そのため、申告の有無と範囲は、契約で決めておく事項になります。
契約で決める理由は3つあります。1つ目は、顧客の期待です。顧客が「人の手で書いた台本だと思って料金を払っている」と考えているなら、AIの下書きをほぼそのまま納めたときに、価値の食い違いが生じます。2つ目は、顧客側の事情です。顧客が上場企業の子会社である場合や、取引先との契約で「AIの使用を事前に報告すること」を義務づけられている場合、顧客自身が報告できるよう、受託者の申告が必要になります。3つ目は、プラットフォーム側のルールです。投稿サービスによっては、AIで生成・加工した内容にその旨の表示を求めることがあるため、最新の運営者の規約で確認します(規約は変わるため、契約書には「運営者の定めに従って表示する」と書くのが現実的です)。
AI利用の申告の型と、向いている場面
| 型 | 内容 | 向いている場面 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 包括同意型 | 契約締結時に「AIを補助的に使う」ことの同意を得る。個別の申告はしない | 台本の下書きや誤字の校正など、AIの寄与が小さい業務が中心のとき | 同意した範囲を超える使い方(顧客情報の入力など)には別の承諾が必要。範囲を条文で区切る |
| 納品時申告型 | 納品のたびに、AI利用の有無と範囲(台本のみ、画像のみ等)を記載する | 制作物の納品が多く、顧客が成果物の出自を把握したいとき | 記載の手間が増える。様式を決めておかないと形骸化する |
| 案件ごとの承認型 | AIを使う案件では、事前に顧客の承認を得てから着手する | 医療・金融・子ども向けなど、慎重な扱いが求められる顧客のとき | 承認待ちで投稿が遅れる。確認の期限を決めておく |
実務では、業務全体は包括同意型にしつつ、入力区分のB・C(非公開情報・個人を識別できる情報)にかかるときだけ個別の承諾を求める、という組み合わせがよく使われます。
申告の中身を決めるとき、細かくしすぎないことも大切です。「使用したAIの名称、バージョン、プロンプトの全履歴、生成日時、編集の過程を、納品のたびに提出する」と書く例がありますが、毎月数十本の投稿を作る運用代行では、記録の負担が報酬に見合わなくなります。顧客が本当に知りたいのは、「AIが関わった範囲」と「人が確認した事実」であることが多く、記録は受託者の側で保存しておき、顧客から合理的な範囲で求められたときに提出する、という設計の方が運用に乗ります。
AIを使った制作物が顧客に届くまでの流れ(例)
- 1下書きAIで台本や画像案を作る。入力区分に反する情報を入れていないことを確認する
- 2人の手直し事実、表現、第三者の権利、実在の人物との類似を目で確かめ、必要な直しを加える
- 3記録どの部分にAIを使ったかを、案件の記録に残す(詳細な履歴は受託者側で保存)
- 4申告契約で定めた型に従い、納品時に、AIの関与の有無と範囲を伝える
- 5承認・投稿顧客の承認を得て投稿する。承認の方法は投稿承認のページの設計に合わせる
流れの途中で顧客が「AIを使わないでほしい」と指示したときは、その案件から使用を止める手順(後述の条文例の第4項)を用意しておきます。
よくある失敗と直し方:AI条項の書き方、4つの例
AIに関する条項は、まだ定型が固まっておらず、他の契約書から抜き出したままの文言が、運用代行の実態に合っていないことが少なくありません。実務で多く見られる書き方と、その直し方を示します。
AI条項の書き方:よくある書き方と整えた書き方
AIの使用を全面的に禁じる
ねらい全面禁止にすると、校正や画像補正の機能まで違反になり、違反が常態化します。禁止の対象を「入力する情報」と「成果物の確認」に絞ります。
AI利用による問題を、受託者が全部保証する
ねらい「すべて保証」は、顧客の指示や素材に由来する問題まで受託者に負わせ、他の条項の賠償の上限とも食い違います。確認の義務と、責任を負わない範囲をセットで書きます。
AIの出力の正確性を、すべて免責にする
ねらい確認をしないで免責される形にすると、運用の事務を善良な管理者の注意をもって処理する義務(民法644条)と矛盾します。確認の義務を認めたうえで、責任の範囲を定める方が、条項として機能します。
秘密情報は、一切AIに入れない
ねらい一切禁止を貫くと、承諾を取らないまま実務が進みます。承諾の窓口と方法(書面、メール、チャット)、承認済みのサービスを一覧にして別紙で管理する形にします。
外注先がAIを使うとき:顧客への約束と、外注先との契約をそろえる
運用代行の多くは、撮影・編集・台本作成を外部のクリエイターに任せています。顧客に「入力区分B・Cの情報はAIに入れません」と約束していても、外注先が無断でAIを使えば、約束は守れません。顧客との契約と外注先との契約を、同じ水準にそろえる必要があります。
委任の受任者は、委任者の許諾を得たとき又はやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者(再委託先)を選任できません(民法644条の2第1項)。顧客に再委託の許諾を得る際に、外注先も顧客と同じAI条項(入力区分、申告、記録)に従うことを条件として示しておきます。外注先が個人のクリエイターであれば、発注の際に給付の内容や報酬の額、支払期日などを書面又は電磁的方法で明示する義務があります(フリーランス法3条1項)。AIの利用を前提とした作業(たとえば、AIで作った素材をベースに仕上げる)を依頼するなら、その旨を給付の内容として書いておきます。また、フリーランス法は特定業務委託事業者に対して、給付の内容を変更させたり、やり直させたりして不当に利益を害することを禁じています(同法5条2項2号)。AIの利用方針を途中で変えて「AI前提でやり直し」を命じる場合には、費用の負担を決めておかないと、この規定に触れるおそれがあります。
外注先との契約に入れる項目は、顧客向けの条項を「下ろす」形で整理すると漏れが少なくなります。具体的には、入力区分の遵守、使用するAIサービスの事前報告、AIを使った部分の申告、第三者の権利を侵害していないことの確認、事故があった場合の報告です。外注先が個人でAIの使い方に慣れていないときは、禁止事項を一覧にして渡す方が、条文だけを渡すより守られます。
ヒヤリングで確認すること:条項を書く前に、実際の使い方を聞く
AI条項は、実際の使い方を聞かずに書くと、実態とずれやすくなります。次の問いは、条項を書く前に確認しておくと、条文の選択が変わる事項です。
AI条項を作る前の確認事項
- AIを使う場面はどこですか。台本、画像、返信案、分析、文字起こしのうち、実際に使っているものをすべて挙げてください。場面によって入れる情報と出てくる物が違い、働く条項が変わるためです。使っていない場面の条項は、書かない方が分かりやすくなります。
- 使っているAIサービスは何ですか。無料版ですか、有料の法人向けですか。入力内容を学習に使わない設定にしていますか。入力した情報が提供者の目的で使われるかどうかが、顧客への説明と、入力の可否を分けるためです。
- 顧客のDMやコメント、顧客名簿を見る機会はありますか。それをAIに貼り付けたことはありますか。個人を識別できる情報の入力は、利用目的や本人の同意との関係で最も説明が難しい領域であり、実態を確認しないと区分Cの扱いを決められません。
- 顧客は、AIを使うことをすでに知っていますか。説明したことがありますか。顧客の期待と食い違っていないかの確認になります。すでに説明している場合は、その内容を条項に反映すると齟齬が出ません。
- 顧客は、取引先や親会社との契約でAIの使用を制限されていませんか。顧客側の制約があると、受託者の申告の方法が変わるためです。
- 外注先に任せている作業はありますか。外注先がAIを使っているかを把握していますか。外注先が把握外でAIを使っていると、顧客への約束が守れなくなるためです。
- 過去に、AIの出力に誤りや似た作品の指摘があったことはありますか。そのとき、どう対応しましたか。実際の対応が、確認手順と責任分担の設計の土台になります。
回答が「分からない」だった項目は、条項に書く前に、実態を調べる作業として扱います。
新しく書き起こした条文例
ここまでの内容を、顧客が事業者であることを前提に、業務委託契約書へ組み込める形の条文例にまとめます。条文番号や別紙の名称は、実際の契約書に合わせて置き換えます。
生成AIの利用に関する条項(例)
1受託者は、本業務の遂行にあたり、台本、キャプション及び画像の下書き、返信文案の作成、資料の要約その他の補助的な作業に、第三者が提供する生成AIサービス(以下「AIサービス」という。)を利用することができる。
2受託者は、AIサービスを利用して作成した成果物を納品する前に、事実関係、数値、表示内容及び第三者の著作権、商標権、肖像に関する権利を侵害するおそれがないかを確認する。委託者が指定した表現、委託者が提供した素材又は委託者が指示した参考資料に起因する問題については、受託者は、前項の確認を尽くした場合に限り、責任を負わない。
3受託者は、特定の第三者の作品、投稿、人物の肖像又は声に似せることを目的として、AIサービスに指示を与え、又は当該第三者の作品等を参考資料として入力してはならない。ただし、権利者の許諾がある場合を除く。
4受託者は、納品する成果物のうち、AIサービスを利用して作成した部分があるときは、納品の際に、その旨と範囲(台本、画像等の別)を委託者に伝える。受託者は、AIサービスの利用の経過を記録し、委託者から合理的な範囲で求められたときは、これを提示する。
5委託者は、受託者に対し、書面又は電磁的方法により、特定の案件又は特定の成果物についてAIサービスの利用の停止を求めることができる。受託者は、これを受けたときは、速やかに当該案件についてAIサービスの利用を止める。この場合の追加の作業量及び報酬は、委託者と受託者が協議して定める。
6受託者は、再委託先がAIサービスを利用する場合にも、本条及び別紙の入力区分を遵守させるものとし、再委託先の行為について自ら行ったものと同様の責任を負う。
第5項の「停止の求め」は、顧客の自由な判断で作業が止まることになるため、追加費用の扱いを一緒に書いておきます。第2項の後段は、顧客の指示に起因する問題を切り分けるものですが、受託者が確認を怠ったことまでは免れさせない書き方にしています。
起きがちなこと:AI条項が機能しなかった場面
契約全体の組み立ては業務委託契約書の作り方のページで、アカウントを預かる際の入口の情報の扱いはアカウント管理のページで、それぞれ詳しく扱っています。
よくあるご質問
SNS運用代行で、顧客の売上データをAIに入力して分析してもよいですか?
契約と顧客の承諾次第です。売上データのような非公開の事業情報は、顧客の事前承諾があり、入力した情報がサービス提供者の別の目的(モデルの学習など)に使われない設定であることを確認できる場合に限って入力する、という書き方が実務的です。個人を識別できる情報が混じっていないかも、入力前に確認します。
DMやコメントの文面をAIに貼り付けて返信案を作ることは、個人情報保護法上問題になりますか?
文面に氏名やアカウント名などが含まれ、それが検索できる形で管理されているときは、個人データの取扱いになり得ます。その場合、利用目的との関係(18条)や安全管理(23条)、委託先の監督(25条)、提供先との関係(27条)などの検討が必要になります。原則は入力せず、入力するなら識別できる情報を消してから行う、という運用が考えられます。
AIで作った台本や画像の著作権は、顧客に譲渡できますか?
人の創作的寄与が乏しい生成物には、そもそも著作権が生じない可能性があります。譲渡条項には、著作物に当たるものに限って譲渡する旨と、権利が生じない場合でも顧客が自由に使えることを書いておくと、食い違いを防げます。人が選択・修正・構成した部分については、著作物として扱える可能性があります。
AIを使ったことは、必ず顧客に伝えなければなりませんか?
一般的な法律上の義務として当然に定められているとは言い切れないため、契約で決めておく事項になります。包括同意型、納品時申告型、案件ごとの承認型のいずれかを選び、顧客の業種や取引先の制約に合わせます。投稿サービスがAI生成の表示を求めている場合は、その運営者の定めにも従います。
外注先のクリエイターがAIを使っているかどうかは、どう確認すればよいですか?
外注先との契約に、入力区分の遵守、使用するAIサービスの事前報告、AIを使った部分の申告を入れておきます。外注先が個人であれば、給付の内容として、AIの利用を前提にした作業かどうかを発注時に書面又は電磁的方法で明示します(フリーランス法3条1項)。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引に必要な対応は、当事者の規模、顧客が事業者か個人か、契約内容、報酬の決め方などによって異なります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は官公庁の公表資料で確認しています。参考: e-Gov法令検索 / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会) / ステルスマーケティングに関する消費者庁の案内 / 景品規制の概要(消費者庁)