このページの要点
- 助言・指導は準委任、制作は請負(又は成果完成型の準委任)。混合型は別条で書き分ける。
- ミーティング・OJTの回数と時間、回答の目安、含まない業務(代筆・制作代行・投稿作業)を明記する。
- 前払い型は、顧客都合の解約・未消化のOJT・繰越しの未了の扱いを決める。受託者が一人法人なら30日前予告も意識する。
- 投稿作業の担当、撮影の許諾の取得主体、教材の権利、ログイン情報を受け取らない設計を決める。
最初に結論:教える支援は準委任、作る支援は請負。混ぜるなら業務ごとに書き分ける
SNS運用の支援は、運用を丸ごと代行する形だけではありません。顧客の社員が自分たちで運用できるようになることを目的に、定例のミーティングで助言し、投稿を添削し、撮影の現場に同行して指導する「伴走型」「内製化支援」「運用コンサル」と呼ばれる形が増えています。リール動画の企画・制作を一部引き受けながら、並行して社内の担当者を育てる、という混合型もあります。
この型の契約で決めておくべきことは、①助言・指導(準委任)と制作(請負又は成果完成型の準委任)の書き分け、②ミーティングやOJTの回数・時間と、未消化になったときの扱い、③前払いと中途解約の精算、④受託者が一人社長の会社や個人のときのフリーランス法、⑤顧客の社員が運用するようになった後の責任の境目、⑥教材・テンプレート・運用マニュアルの権利、の6点です。代行型の契約の基本は業務委託契約書のページで扱っているので、ここでは「代行から教える支援へ」移ったときに変わる点を中心に整理します。
支援の型と、契約の性質の目安
| 型 | 主な業務 | 性質の目安 | 決めておくこと |
|---|---|---|---|
| 伴走型サポート | 月数回のミーティング、チャットでの質問対応、運用状況の確認と改善提案 | 準委任 | 回数・時間・回答の目安、含まない業務(投稿の代筆・制作代行・広告運用など) |
| 内製化支援・OJT | 社内の役割整理、撮影現場での指導、社員が作った投稿の添削 | 準委任 | OJTの回数・1回の上限時間・移動時間の扱い・振替の期限 |
| 混合型 | 上記に加えてリール動画・フィード投稿の企画・制作・納品 | 準委任+請負(又は成果完成型) | 制作物の本数・納品データ・確認期限・修正回数を別条で |
| 運用コンサル(成果連動) | 助言に加え、売上の一定割合を報酬とする | 準委任+レベニューシェア | 売上の範囲・報告・支払時期、成果を保証しない旨 |
業務範囲:回数・時間・回答の目安と、含まない業務
伴走型の契約で争いになりやすいのは、「どこまで面倒を見てもらえるのか」という範囲です。事務所が作成した個人のInstagram運用サポートの契約書では、目的を「アカウントの運用支援及び自立的運用を目的とした伴走型サポート」と明記したうえで、月2回を目安に各90分以内のミーティング(対面又はオンライン)を行うこと、LINEでの質問には原則として24時間以内に回答し土日祝を除くこと、Instagram以外のSNSの支援・投稿文の代筆・画像や動画の制作代行・有料広告の運用・マーケティング分析は含まないことを定めました。業務内容の変更・追加は、書面で内容・報酬・期間を合意してから行う形にしています。
社員が作った投稿の添削やフィードバックを業務に含める場合は、1か月に何本まで添削するか、どの方法で(チャット上のコメントか、定例ミーティングか)返すかを決めておきます。数値の分析と改善提案を行うなら、使う数値をInstagramのインサイトなど双方が確認できるものに限ると、分析の前提をめぐる食い違いを防げます。
撮影の現場でのOJTを含む場合は、1回あたりの実施時間の上限(休憩を含む時間か、移動時間を含むか)、実施期間、顧客側の都合で実施できないときの振替の期限、交通費・宿泊費の負担を決めます。レビューした法人向けInstagram運用支援の契約では、OJTの1回の上限時間を休憩を含めて定め、現地までの往復の移動時間を含まないことを明記していました。
伴走型サポートの業務範囲(含まない業務の書き方)
1本業務は、委託者が運営するInstagramアカウントについて、委託者が自ら運用できるようになることを目的として、受託者が助言、確認及び指導を行うものとし、受託者は特定の成果を保証しない。
2次の業務は本業務に含まれない。(1)Instagram以外のSNSの運用支援(2)投稿文の代筆並びに画像及び動画の制作代行(3)有料広告の運用(4)アカウントへの投稿作業の代行
3前項の業務の実施を希望する場合、当事者は、その内容、追加料金の有無及び金額並びに実施時期を、記録に残る方法により事前に合意する。
「記録に残る方法」として、日常の連絡に使うチャットツールを指定しておくと、後から合意の有無を確かめやすくなります。
前払いと中途解約・未消化のOJT
伴走支援や内製化支援は、契約期間の初めに料金の全額を前払いで受ける設計が少なくありません。この場合、顧客の都合で途中で解約されたときに、受領済みの料金を返すのか、未払いの残額も請求できるのかが最大の論点になります。
事務所が受託者(一人社長の会社)の立場でレビューした法人向けの契約は、受託者が人員の手配と講義の準備を進めていることを条文に明記したうえで、委託者の都合による解約では、契約期間の開始前や支払前であっても業務委託料の総額の支払義務を免れない、と定めていました。民法の委任の任意解除(民法651条1項)や割合的報酬(民法648条3項)は任意規定なので、合意で修正すること自体は妨げられず、この定めは損害賠償額の予定(民法420条1項)と整理できます。準備を進めている事実が条文上明らかなことは、満額請求の合理的な根拠になります。ただ、開始前・支払前の解約でも満額とする部分は、現に生じた損害に比べて過大だと争われる余地が理論上残るため、金額の算定根拠(人員の確保費用・機会損失など)を一文加えることを提案しました。
前払い型の伴走契約の改訂例(受託者の立場)
未消化のOJT
ねらい全額前払いの構造で返金の要否が「協議」だけだと、協議が整わないときの帰結がありません。
受託者からの解除
ねらい逆向きの解除の場面の報酬請求の根拠を明確にします。
繰越しの未了
ねらい受託者が無期限に無償対応を強いられることを防ぎます。
前払いと中途解約に関係する周辺の定めとして、レビューした契約では次の点も補うよう提案しました。定例ミーティングの回数(月2回・60分程度)と方法は決まっていましたが、追加のミーティングや追加の業務を「事前に合意して実施する」とするだけで合意の方法が書かれていなかったため、日常の連絡に使うチャットツールなど記録に残る方法で合意する旨を加えること。日常の連絡手段は決まっていても、解除や催告などの重要な通知の方法と、いつ届いたことになるかの定めがなかったため、これを加えること。契約期間の満了に向けて更新するかどうかを話し合う時期の定めがなく、受託者が次の体制を組みにくかったため、満了の一定期間前までに更新の協議を始める旨を加えること。不可抗力で現地の撮影やOJTができなくなったときに、双方が責任を負わず実施期限を調整できる定めを加えること、です。
反対に、顧客の立場から見れば、受託者の都合や重大な過失で支援が提供されなかった場合に、未提供分の返金を受けられるかが関心事になります。個人向けの伴走契約では、支払済みの報酬は原則として返金しないとしつつ、受託者に重大な過失又は契約違反があると合理的に認められる場合は、未履行分相当額の返金の要否を協議する定めを置きました。
受託者が一人社長の会社・個人のとき:30日前の予告と理由の開示
受託者が、代表者1名のみで他に役員がなく従業員を使用しない会社や個人である場合、受託者はフリーランス法の特定受託事業者に当たります(同法2条1項)。委託者が役員を2名以上置くか従業員を使用する会社(特定業務委託事業者、同条6項)で、契約期間が6か月以上(同法13条1項、同法施行令3条)の継続的業務委託であれば、委託者は、契約を解除するとき、又は更新しないときに、原則として少なくとも30日前までに受託者へ予告する義務を負います(同法16条1項)。予告を受けた受託者が契約の満了日までに解除の理由の開示を求めたときは、委託者は、原則として遅滞なく開示しなければなりません(同条2項)。
レビューした8か月の契約には、この予告義務への言及がありませんでした。予告義務は行政上の規制であり、違反しても当然に解除が無効になるわけではありませんが、契約書に明記しておくことで、委託者の認識の食い違いを防げます。中途解約条項に、予告と理由開示についての一文を加えることを提案しました。このほか、報酬の支払期日(同法4条)や、1か月以上の委託での減額・やり直しの禁止(同法5条)も、委託者の義務として働きます(成果報酬とフリーランス法のページで扱います)。
顧客の社員が運用するようになった後の責任の境目
内製化支援では、投稿作業そのものは顧客の社員が行い、受託者は助言とフィードバックにとどまるのが基本です。レビューした契約でも、Instagramへの実際の投稿作業は原則として委託者が行い、ストーリーズは委託者又はその担当者が制作・投稿して受託者は助言と確認を行う、と分けていました。投稿作業を受託者が代行する場合の条件は「別途定める」とされていたため、代行する場合は追加業務の規律(内容・料金・実施時期を事前に合意する定め)に従う旨を明記するよう提案しました。誰が投稿ボタンを押したかで、誤投稿や表示の問題が起きたときの責任の所在が変わるからです。
撮影を伴う支援では、撮影の対象となる人や場所の権利者との調整と許諾の取得を、顧客の義務として明確にしておくことが重要です。レビューした契約は、撮影される人や撮影場所の管理者との調整を委託者が行い、SNSに載せるのか広告にも使うのかといった実際の使い道に見合う許諾をあらかじめ取っておき、その内容を受託者に伝え、受託者は伝えられた範囲で動く、という定めになっていました。何かあったときに受託者が「許諾の範囲で動いた」と示せる、受託者を守る設計です。ただし、委託者がこの義務を怠って第三者から受託者に請求があった場合にまで損害賠償の上限がかかると、受託者に落ち度がないのに差額を自己負担することになるため、その場合を上限の対象から外す定めを提案しました。
撮影の対象となる顧客の顧客の情報(氏名、住所、住まいの間取り、家族構成、撮影した写真や動画)を扱う支援では、秘密保持と個人情報の条項も重要です。レビューした契約は、これらの情報を慎重に扱う旨を定めていましたが、公知の情報や受託者が既に持っていた情報などを秘密情報から除く例外の定めがなく、受託者の一般的な運用の知見まで秘密情報と混同されるおそれがありました。また、受託者が自由に再委託できる定めになっていたため、受託者の機動性を損なわない範囲として、再委託先の名称と業務の内容を事前に通知する形を提案し、受託者が再委託先に個人データの取扱いを委ねるときは、受託者自身も再委託先を監督する旨(個人情報保護法25条)を加えるよう提案しました。
混合型で制作物を納める場合は、制作物の権利の書き方も確かめます。レビューした契約は、制作物の著作権を27条・28条の権利を特掲して顧客に移す設計で、著作権法61条2項が求める特掲を満たしていました。そのうえで、顧客や顧客が指定する第三者(広告代理店など)が動画をカットしたり、字幕やBGMを差し替えたりして使う場面に備えて、著作者人格権の不行使特約を加えること、確認の期限を過ぎたときにみなし承認とする定めを加えることを提案しました。確認が遅れるたびに納品が止まる事態を避けるためです。
教材・テンプレート・運用マニュアルの権利
伴走支援で受託者が作るのは、投稿そのものより、テンプレート、運用マニュアル、チェックリスト、分析レポート、助言の文書です。これらの権利を誰に帰属させるかは、受託者のノウハウを守るか、顧客が社内で自由に使えるようにするかの選択です。
- 受託者に帰属させ、使用を許諾する型:個人向けの伴走契約では、テンプレート・マニュアル・資料・レポート・助言文書の権利は受託者に帰属し、顧客は契約の目的の範囲内で、非独占的・譲渡不能・第三者利用不可の条件で使えるものとし、終了後の継続使用は受託者の承諾した範囲に限りました。
- 制作物は顧客に譲渡する型:混合型でリール動画・投稿画像を納品する場合は、制作物の著作権(27条・28条の権利を含む)を顧客に移し、著作者人格権を行使しない旨を定めます(著作権と素材のページで解説)。
- 助言内容の扱い:X(旧Twitter)の運用コンサルの契約では、助言の内容と報告書は顧客が自己の責任と負担で利用でき、受託者の書面による承諾がない限り第三者に利用させない、と定めました。
- 録音・録画・公表:ミーティングの録音・録画や、受け取った資料のSNSでの公表・転売を、受託者の承諾なしに行わない旨を禁止事項として置くことがあります。
ログイン情報を受け取らない設計と、成果を約束しない書き方
教える支援では、受託者が顧客のアカウントにログインする必要がないことも多くあります。ログイン情報を受け取らなければ、乗っ取りや情報漏えいの責任を抱え込まずに済みます。Instagram運用の個別コンサル型の講座の受講契約書では、受講者がアカウントのログイン情報を提供する必要はないことを明記しました。分析のために画面を確認する必要がある場合も、顧客に画面を共有してもらう、閲覧だけの権限を付与してもらう、といった方法を選べます(アカウントの管理のページで解説しています)。
成果については、フォロワー数・再生回数・問い合わせ数・売上などはプラットフォームの状況や顧客の運用状況に左右されるため、受託者は特定の成果を保証しない、と書いておきます。レビューした契約はこの点を明記しており、紛争の予防に役立つ定めとして評価しました。一方、「売上が投資額に達しなければ期間を延長し、それでも達しなければ料金の半額を返金する」といった成果保証付きの返金を約束する場合は、売上の把握方法と顧客が実施すべき施策を条件として書かなければ、返金の要否そのものが争いになります。また、申込者がこれから事業を始める個人である場合は、事業者間の契約といえるかが問題になります(申込書・利用規約の作り方のページで扱います)。
伴走・内製化支援の契約を作る前に事務所が伺うこと
- 制作物の納品はありますか。あるなら本数と納品データの形式は。準委任の条項と請負(又は成果完成型)の条項を別条で用意するためです。
- 料金は前払いですか、月払いですか。途中解約のときはどうしたいですか。解約時の精算と、未消化分の返金の要否を決めるためです。
- 受託者は一人社長の会社や個人ですか。相手の会社に役員や従業員はいますか。フリーランス法の30日前予告などが働くかどうかが決まるためです。
- 投稿作業はどちらが行いますか。アカウントにログインしますか。責任の境目と、ログイン情報の管理の条項が変わるためです。
起きがちなこと:教える支援を代行の契約書で始めたとき
よくあるご質問
伴走型のSNSサポートは、運用代行の契約書で代用できますか?
代行型の契約書は制作や投稿作業を前提にしているため、そのままでは「どこまで教えるか」「投稿作業は誰が行うか」が合いません。ミーティングの回数や回答の目安、含まない業務、投稿作業の担当を、伴走型に合わせて書き直します。
前払いで受け取った料金は、途中解約されても返さなくてよいですか?
契約で、顧客都合の解約でも料金を返さない(又は総額を支払う)と定めることはできますが、損害賠償額の予定として、実際に生じ得る損害と著しく均衡を欠くと公序良俗に反するとして争われる余地があります。準備を進めている事実と算定根拠を条文に書いておくと説明しやすくなります。
一人社長の会社として受けた契約にも、フリーランス法は関係しますか?
代表者1名のみで他に役員がなく従業員を使用しない会社は特定受託事業者に当たります。委託する会社が役員2名以上又は従業員を使用していれば、支払期日や、6か月以上の契約を解除するときの30日前の予告などの義務が委託者に生じます。
撮影の許諾は、支援する側と顧客のどちらが取るべきですか?
撮影の対象者や撮影場所の権利者と関係を持っているのは顧客であることが多いため、予定する媒体・目的・範囲に応じた許諾の取得を顧客の義務とし、その範囲を受託者に共有してもらう形が一般的です。
内製化支援で作ったマニュアルは、顧客のものになりますか?
契約で決めていなければ、著作権は作成した受託者に残るのが原則です。受託者に帰属させて社内利用を許諾するのか、顧客に譲渡するのかを契約で決めておきます。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引に必要な対応は、当事者の規模、顧客が事業者か個人か、契約内容、報酬の決め方などによって異なります。事務所の書類での扱いとして紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきたSNS運用代行・運用支援の契約書、申込書・利用規約、外注先との基本契約・発注書、キャンペーン規約・プライバシーポリシー、リーガルレビュー報告書などを、個別の依頼者・相手方が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月18日)。参考: e-Gov法令検索 / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会) / ステルスマーケティングに関する消費者庁の案内 / 景品規制の概要(消費者庁)