このページの要点
- 起用の契約は、運用代行の契約の外にある。誰が誰と契約するのかを先に決める。
- 報酬は「1本」と「成果」の数え方を決め、数字の報告と虚偽への措置を書く。
- 二次利用は、目的・媒体・期間・加工・再許諾の五つの軸で範囲を限る。
- 取下げは、事由・期限・範囲と、原因ごとの報酬の扱いをセットで決める。
SNS運用代行の周辺では、アカウントの運用とは別に、インフルエンサーに投稿してもらう、アンバサダーとして継続的に発信してもらう、という施策が追加されることがよくあります。この起用の契約で決めておくことは、突き詰めると四つです。報酬をどう数えるか、投稿内容を誰がいつまでに確認するか、投稿を広告などにどこまで使えるか(二次利用)、そして炎上したときに取り下げてもらえるか、取り下げたら報酬はどうなるかです。
もう一つ、運用代行ならではの前提があります。運用代行の契約書では、インフルエンサーとの交渉や出演者の手配が「業務に含まれない」ものとして列挙されていることが多く、起用を頼むなら別の契約が必要になります。運用代行の契約と、インフルエンサー起用の契約が、誰と誰の間で、どう噛み合うのか。ここを曖昧にしたまま投稿が始まるのが、いちばん多い失敗です。このページでは、起用する側(広告主、又は広告主から手配を任された運用代行会社)の目線を中心に、起用される側が確認しておきたい点にも触れながら、順に整理します。
- 誰と契約するのか:広告主との直接契約か、仲介者を通す契約か、で責任の置き場所が変わる。
- 報酬:1本いくらの固定か、成果に連動させるか。「1本」「成果」の数え方を決める。
- 投稿内容の確認:確認者、期限、修正回数、広告であることの表示を決める。
- 二次利用と取下げ:使える範囲を限り、取り下げる場合の期限・範囲・報酬の扱いを先に書く。
誰と誰が契約するのか:直接契約・手配型・再販型の違い
結論から言うと、起用の契約は「広告主とインフルエンサーの直接契約」か、「間に運用代行会社や代理店が入る契約」かで、条項の置き場所が変わります。まず三つの型を並べます。
インフルエンサー起用の契約の三つの型
| 型 | 契約の当事者 | 投稿の責任の置き場所 | 落とし穴 |
|---|---|---|---|
| 直接契約型 | 広告主とインフルエンサー本人 | 広告主が内容を承認し、表示を管理する。本人は自分のアカウントの発信者 | 広告主側の管理負担が大きい。確認・取下げの手順を広告主が自分で回すことになる |
| 手配型 | 広告主と運用代行会社(選定・連絡調整まで)。本人との契約は別 | 運用代行会社の助言は参考情報とし、最終の承認と適法性の責任を広告主に置く例が多い | 本人との契約を誰が結ぶのかが空白になりやすい。本人が降りた、投稿しなかったときの代替が決まっていない |
| 再販型 | 広告主→運用代行会社又は代理店→本人 | 代理店が広告主から請け負った投稿を本人に任せる。責任が二段に分かれる | 広告主向けと本人向けの契約で、確認期限・修正回数・取下げ条件がずれる |
運用代行の契約書には、「インフルエンサーとの交渉」「撮影場所・出演者等の手配」「炎上対応又は謝罪文作成」を業務外として列挙し、希望があれば追加費用や条件を協議する、と書く型があります。これ自体は、運用代行の範囲を守るために合理的です。ただし、広告主が「運用代行会社に頼めばインフルエンサーも手配してもらえる」と考えていると、期待のずれがそのまま紛争になります。起用まで頼むなら、運用代行の契約の外に、選定・連絡調整の範囲と報酬を定めた個別の合意を作り、運用代行の業務委託契約書の業務範囲の条と矛盾しないようにします。
手配型の契約でよく見られるのが、「仲介者を通さない直接取引の禁止」です。仲介を通じて知り合ったインフルエンサーと、契約終了後一定期間は直接取引をしない、違反すれば取引の売上に一定割合を乗じた額を違約金として支払う、という書き方です。仲介者の営業努力を守る目的は理解できますが、次の点で紛争の火種になります。
- 対象の広さ:「関与したインフルエンサー」を、契約に至らなかった者まで含めると、広告主が以前から知っていた人も禁止対象になりかねません。実際に紹介を受けた候補者の名簿を書面で確定し、広告主が以前から取引していた者は除く、と書きます。
- 違約金の算定:違約金(民法420条3項により賠償額の予定と推定されます)を、取引で生じた売上全体の何割と定めると、仲介者が受けた実際の損害から離れた金額になり、公序良俗(民法90条)に反しないかが問われ得ます。仲介の紹介料に相当する額を基準にする方が、後で争いになりにくい書き方です。
- 期間と範囲:期間は紹介から一定の月数に限り、禁止するのは同じ種類の起用に限ります。
もう一つ、個人のインフルエンサーに発注する場合は、フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が関わります。従業員を使用しない個人などの特定受託事業者に業務委託をした業務委託事業者は、給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、直ちに書面又は電磁的方法で明示しなければなりません(同法3条1項)。投稿のたびにチャットで依頼する運用でも明示は必要なので、個別の投稿の条件を記録に残す仕組みを用意します。代理店が広告主から請け負った投稿の制作を個人に再委託する場合などは、2026年1月1日に下請法の名称が改められた中小受託取引適正化法(取適法)の対象となる取引もあり得ますので、資本金などの要件に当たるかどうかを取引ごとに確認します。
報酬はどう決めるか:固定・成果連動・商品提供と、数え方の約束
結論として、報酬の型は固定、成果連動、併用、商品の提供のみ、の四つに分けられ、どの型でも「1本」と「成果」の数え方を決めておかないと、請求の段階で食い違います。
報酬の型と、決めておくこと
| 型 | 内容 | 決めておくこと |
|---|---|---|
| 固定 | 投稿1本、配信1枠など、単位ごとの定額 | 「1本」の数え方(ストーリーズ、再投稿、切り抜き動画は1本か複数か)、掲載期間、動画の長さの上限 |
| 成果連動 | 専用リンク・専用コード経由の購入、問い合わせ1件ごとなど | 成果の定義、計測の手段と画面、キャンセル・返品の除外、確定のタイミング |
| 併用 | 固定の最低保証に成果を上乗せ | 固定部分が成果報酬の前払いなのか、別建てなのか。成果が固定を下回る月の扱い |
| 商品提供のみ | 商品やサービスを無償で提供し、投稿してもらう | 対価がある以上、広告としての表示が必要になり得る。送付先の個人情報の扱い、返品・返却の要否 |
商品の提供は、金銭ではなくても投稿の対価になり得ます。「謝礼はなし」と考えて表示を省く運用は、後で問題になります。
併用型の計算例(数字は説明用の仮のものです)
| 項目 | 条件・計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 固定部分 | 投稿1本4万円 × 2本 | 8万円(税別) |
| 成果部分の売上 | 専用コード経由の売上30万円のうち、返品5万円を除外 | 25万円 |
| 成果報酬 | 25万円 × 8% | 2万円(税別) |
| 当月の報酬合計 | 8万円 + 2万円 | 10万円(税別) |
返品が成果の確定後に起きたとき、翌月以降の報酬から差し引くのか、対象外とするのかを決めておきます。
計測の手段も争いの種です。運用代行の現場では、投稿の再生数やフォロワー数は、本人の管理画面でしか見えないことが多く、数字の水増しが後から分かるという事態が起こり得ます。契約では、報告する数字の項目、期限、提出の方法(管理画面の画面写し、投稿のURL)を決め、虚偽が分かったときは、虚偽の部分に対応する報酬の返還・控除、故意の場合は解除、と段階を付けておきます。
支払の時期も決めます。フリーランス法は、従業員を使用する事業者などの特定業務委託事業者が特定受託事業者に業務委託をした場合、報酬の支払期日を、給付を受領した日(役務の提供を受けた場合はその提供を受けた日)から起算して60日の期間内で、できる限り短い期間内に定めるよう求めています(同法4条1項)。月ごとに締めて支払う運用については、公正取引委員会のQ&A(Q48)で、受領から2か月以内とされています。「検収が終わったら」「広告主から入金があったら」と支払期日を先送りにする書き方は、この規律との関係で使えません。
さらに、1か月以上続く業務委託では、特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに報酬の額を減ずることなどが禁じられています(同法5条1項2号)。投稿は承認どおりに行ったのに、広告主側の事情(炎上、方針変更)で報酬を減らす、という運用は、この点で問題になります。この点は後の取下げの節でもう一度取り上げます。報酬の定め方の一般的な型は成果報酬とフリーランス法のページで解説していますので、ここでは起用に固有の点に絞りました。
投稿内容の確認:確認者・期限・修正回数・広告であることの表示
投稿前の確認は、運用代行で使う仕組みをそのまま起用に移すのが基本ですが、インフルエンサーの投稿は本人のアカウントで本人の言葉で出るため、いくつか固有の決めごとがあります。確認の一般的な仕組みは投稿承認・コメント/DM対応・炎上時の対応のページに譲り、ここでは起用に特有の点を挙げます。
インフルエンサー投稿の確認の流れ(例)
- 1台本・構成案本人が構成案を出し、広告主が事実関係と表現を確認する
- 2下書き・動画公開前の下書きを提出。確認期限と修正回数の上限を守る
- 3広告表示の確認「広告」「PR」などの表示の文言と位置を、公開前に確認する
- 4公開・記録公開したURLと日時を共有し、承認の記録を残す
- 5公開後の確認公開後の編集を禁止し、削除・修正の依頼ルートを決める
確認者は、広告主の側の担当者を一人に決めます。複数の担当者が別々の意見を出し、本人が板挟みになると、修正が終わらなくなります。修正の回数にも上限が必要で、フリーランス法は、特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、給付の内容を変更させ、又は給付を受領した後にやり直させることで、特定受託事業者の利益を不当に害することを禁じています(同法5条2項2号)。「納得するまで何度でも直す」と書くのではなく、「台本の確認で1回、動画の確認で2回まで、それを超える修正は別途協議」のように回数を決め、本人の落ち度による誤り(事実と違うことを言った、指定した表現を使わなかった)は回数に数えない、と区別しておきます。
広告であることの表示は、契約の中でも手順まで書いておくべき項目です。令和5年10月1日から、広告主の広告であることを一般消費者が判別しにくい表示は、景品表示法上の規制の対象になっています。名宛人は商品やサービスを供給する広告主で、インフルエンサー本人は規制の直接の対象ではありません。ただし、広告主が依頼し、内容に関与した投稿は、広告主の表示として扱われます。つまり、本人が表示を忘れても、問われるのは広告主です。契約では、表示の文言(「広告」「PR」「提供」などのうち何を使うか)、位置(冒頭の見えやすい場所か)、動画ならどの時点で出すか、を決め、公開前の確認項目に入れます。詳しい考え方はSNS運用代行とステマ規制のページにあります。
運用代行会社が手配する場合は、「必要に応じて表示する」と書かず、表示の要否を判断する主体と、判断を本人へ伝える手順を書きます。医薬品や健康に関する効能の表現のように、広告主以外の者も対象とする規制がある分野では、広告主の承認を得ていたことは、投稿者や手配者が責任を免れる理由になりません。
二次利用:投稿を広告やサイトに使える範囲を、目的・媒体・期間で決める
結論として、投稿の著作権は本人に残し、広告主には使える範囲を限って許諾する形が基本です。そして「二次利用」の範囲は、目的、媒体、期間、加工、再許諾の五つの軸で書きます。範囲を決めずに「二次利用可」とだけ書くと、広告への転用の可否で争いになりやすくなります。
著作権法の整理は次のとおりです。本人が撮った動画や写真、書いた文章の著作権は、契約で譲渡しない限り本人にあります。広告主が使うには、著作権者である本人の許諾が必要で、許諾を得た者は、その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内で利用できます(著作権法63条2項)。広告主がその利用権を代理店などの第三者に譲る場合は、著作権者の承諾が必要です(同条3項)。広告の運用を運用代行会社や広告代理店に任せる広告主は、許諾の範囲に「広告主が委託する第三者による利用」を入れておかないと、運用代行会社が使うたびに本人の承諾が要ることになります。
動画の字幕入れ、トリミング、音の差し替えのような加工も、範囲に入れておく必要があります。投稿を翻案する行為(同法27条)と、その二次的著作物を利用する際の原著作者の権利(同法28条)が関わるためです。また、著作者人格権は著作者の一身に専属し譲渡できません(同法59条)。そこで契約では、譲渡ではなく「著作者人格権を行使しない」という約束にするのが通例ですが、本人の同一性保持権(同法20条)が関わる加工、たとえば本人の発言の切り取りや、意味が変わる編集は、「事前に確認を受ける」としておく方が、実際の運用でも本人の納得を得やすくなります。肖像や声の利用も、投稿の利用とは別に範囲を書きます。運用側の著作権の整理はSNS運用代行の著作権のページにもあります。
二次利用の範囲を決める五つの軸
| 軸 | 決めること | 書き方の例 |
|---|---|---|
| 目的 | 何のために使うか | 広告主の自社サイト、公式アカウント、広告配信への使用に限る。商品化や第三者への販売は含まない |
| 媒体 | どの場で使うか | 広告主の公式アカウント、広告配信、店頭のデジタル掲示など、媒体を列挙する |
| 期間 | いつまで使えるか | 公開日から6か月。更新は協議。終了後の既存の投稿の扱いも定める |
| 加工 | どこまで編集してよいか | 字幕、トリミング、サイズ変更は可。発言の切り取りや音声の差し替えは事前に本人へ確認 |
| 再許諾 | 第三者に使わせられるか | 広告主が委託する運用代行会社・広告代理店に限り、広告主の責任で使わせてよい |
投稿料に二次利用の対価が含まれるのか、別料金なのかも、この表の項目と一緒に決めておきます。
二次利用で実務上多い紛争は、期間と対価です。たとえば「無償で、地域・期間・媒体を問わず使える」とする書き方は、広告主から見ると使い勝手がよい反面、投稿料に比べて利用の範囲が広すぎ、本人の納得を得にくくなります。買い切りや広告への転用、期間の延長を希望する場合は、範囲・期間・対価を別途合意するとする型もあります。広告への転用は、同じ動画でも見られる回数が桁違いに増え得るため、投稿料とは別に使用料を定める方が、後の争いを避けられます。
炎上したら取り下げてもらえるか:取下げの条項と、報酬・責任の分け方
結論として、取下げの条項は「何をきっかけに、いつまでに、どこまで消すか」と「消した場合の報酬と費用をどう扱うか」の二つで書きます。きっかけだけを書いて報酬の扱いを書かないと、取下げのたびに本人と広告主が揉めます。
炎上時の取下げの流れ(契約で決めておく例)
- 1発見・連絡どちらが気づいても、指定の連絡手段で直ちに相手方の担当者へ連絡する
- 2一時非公開一定の事由があるときは、本人が広告主の指示で一時的に非公開にする。期限は数時間単位で定める
- 3取下げの判断削除、修正、継続のどれにするかを広告主が決める。本人の意見を述べる機会を与える
- 4範囲の確認元投稿、再投稿、切り抜き、ストーリーズ、固定コメント、保存されたアーカイブの扱いを決める
- 5報告消した日時と範囲を書面(メール)で報告。広告配信も止める
取下げの事由は、「広告主が必要と判断したとき」だけにせず、いくつかの類型に分けます。①投稿の内容が、広告主の確認後に誤りと分かったとき、②法令やプラットフォームの規約に反するおそれが出たとき、③権利者から削除の申出があったとき、④本人の言動で、広告主の信用が損なわれ、又はそのおそれがあるとき、⑤世論の反応により、継続が不適当と広告主が合理的に判断したとき、です。類型ごとに、費用と報酬の扱いが変わります。
取下げの原因と、報酬・費用の扱いの考え方(契約で決める例)
| 原因 | 誰の責めか | 報酬の扱い(例) | 再投稿・追加費用 |
|---|---|---|---|
| 広告主が承認した内容に誤りがあった | 広告主側 | 報酬は全額支払う | 差し替えの投稿費用は広告主が負担 |
| 本人が承認と違う内容を投稿した | 本人側 | 減額・返還を定めることができる(要件と範囲を書く) | 差し替えは本人の費用で行う |
| 権利者の申出(素材の権利は誰が用意したか) | 用意した側 | 用意した側が負担。事前の確認を怠った側の分担を書く | 素材の差替え費用の分担を決める |
| 世間の反応による広告主の判断(誰にも落ち度がない) | 責任の所在なし | 実施済みの分は全額、未実施の分は取下げ時点までの作業量に応じて精算 | 再撮影が必要なら協議 |
「誰の責めに帰すべき事由か」を契約で決めておかないと、取下げのたびに事後の争いになります。
報酬の扱いは、フリーランス法との関係で特に注意が必要です。本人の責めに帰すべき事由がないのに、広告主の都合で投稿を取り下げ、その分の報酬を減らす、といった運用は、同法5条1項2号が禁じる報酬の減額に当たり得ますし、取下げの後に投稿を作り直させる運用も、5条2項2号の問題になり得ます。本人の責めによる場合に限り減額・返還の対象とする、という整理が現実的です。また、継続的な業務委託の契約を中途で解除するときは、特定業務委託事業者は、原則として少なくとも30日前までに予告しなければなりません(同法16条1項)。炎上を理由にすぐ契約を打ち切りたい場合の例外は厚生労働省令に定められていますので、「炎上したら即時解除」と書くだけで足りると考えず、予告が不要な場合を限って書く方が安全です。
取下げ・非公開に関する条項の例(広告主とインフルエンサー本人の直接契約)
1甲は、乙の投稿について、法令若しくはプラットフォームの規約に違反するおそれがあるとき、第三者の権利を侵害するおそれがあるとき、又はその他乙の投稿の継続が甲の信用を著しく損なうおそれがあると合理的に判断したときは、乙に対し、当該投稿の非公開又は削除(以下「取下げ」という。)を、その理由を示して求めることができる。
2乙は、前項の求めを受けたときは、原則として求めを受けた時から24時間以内に取下げを行い、取下げを行った日時と範囲(再投稿、切り抜き、ストーリーズ、固定コメントを含む。)を甲に書面(電磁的方法を含む。)で報告する。乙が取下げを行うことが困難なときは、直ちにその旨を甲に伝え、甲はプラットフォームに対する申告その他の必要な措置をとることができる。
3取下げが、甲が承認した内容に起因する場合、又は乙の責めに帰すべき事由によらない場合、甲は、取下げの時までに乙が行った業務に対応する報酬の全額を支払う。取下げが、乙が承認と異なる内容を投稿したことその他乙の責めに帰すべき事由による場合は、甲は、当該投稿に対応する報酬のうち、取下げにより成果が生じなかった部分に限り、支払を免れ、又は返還を求めることができる。
4甲は、取下げを求めた投稿について、取下げの時から、自己のアカウント及び広告配信において使用を中止し、中止した日時を乙に書面で報告する。
「責めに帰すべき事由」の判断を巡る争いを減らすため、承認の記録(日時、承認者、承認した版)を残す仕組みを、同じ契約の別の条で定めておきます。
アンバサダーとギフティング:長く続ける契約、無償の契約で気をつけること
結論として、アンバサダー契約は「期間が長い」「報酬が成果連動」「肩書を使える」の三点で、単発の投稿よりも条項の置き方が難しくなります。また、商品を無償で渡して投稿してもらう(ギフティング)は、報酬がなくても契約の整理が必要です。
アンバサダーには、SNSで投稿してもらう型と、サービスを紹介して新規の利用者を集めてもらう紹介型があり、後者は営業活動に近い性質を持ちます。紹介型の契約でよく見られる問題を整理します。
アンバサダー契約でよくある書き方と、整えた書き方
紹介の目標
ねらい目標を数値で置くと、未達のときに義務違反と主張されるおそれがあります。努力目標と明記します。
成果の判断
ねらい一方当事者の判断が最終的とする条項は、報酬が実際より少なく計算されたときに本人が争えなくなります。
報酬の対象期間
ねらい終了後に報酬が消えると、紹介した本人の動機が失われ、争いになります。
起用される側の個人にとって、もう一つ重要なのが競業の制限です。契約の期間中だけでなく、終了後も1年間、競合する会社の宣伝を一切してはならない、と書く例がありますが、範囲が「類似のサービス」としか書かれていないと、何が禁止なのか本人が判断できません。個人が収入を得る手段を狭める制限なので、対象とする商品・サービスの種類、期間、対価(制限される分の補償を含むか)を絞って書きます。
また、アンバサダーが広告主の指示で決まった時間に決まった内容を発信する形になると、業務委託の実態から離れるおそれがあります。投稿の時間帯や頻度は目安にとどめ、本人の発信の自由を守ります。
ギフティングでは、商品を渡して投稿を依頼する以上、投稿の確認、広告であることの表示、取下げの条項は有償の場合と同じように必要です。加えて、一般の人が本人のアカウントで少数のフォロワーに向けて投稿するような場合、その人は事業として契約する者ではなく、消費者契約法上の「消費者」(個人。事業として又は事業のために契約の当事者となる場合を除く。同法2条1項)に当たる場合があります。このとき、主催者側の免責や賠償の条項は、同法8条(事業者の責任を免除する条項の無効)、10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)の対象になります。投稿を取り下げなかった場合の違約金を定めるときは、契約を続けたまま違反に科す金額は、同法9条1項1号(契約の解除に伴う損害賠償の額の予定・違約金)の対象外で、民法420条・90条や、同法10条で有効性が判断されます。違約金を一律の高額にせず、実際に生じた損害を請求する形にしておく方が安全です。
送付先の氏名・住所の取扱いにも注意が必要です。商品の送付のために本人から住所を預かると、個人情報の取得に当たります。契約書などの書面に記載された本人の個人情報を直接取得するときは、あらかじめ本人に利用目的を明示する必要があります(個人情報保護法21条2項)。運用代行会社が広告主から送付先の一覧を預かって発送するなら、個人データの取扱いの委託に当たり、委託元には委託先の監督義務があり(同法25条)、委託に伴う提供は第三者提供にはなりません(同法27条5項1号)。
よくある失敗と直し方
ここまでの論点を、実務でよく見られる書き方と、整えた書き方の対比で見てみます。
よくある失敗と直し方
二次利用の許諾
ねらい範囲が広すぎる許諾は、本人が納得せず、広告に使ったとき紛争になります。
広告表示
ねらい「目立たせる」は広告であることの表示とは別の問題です。表示の義務を明確に書きます。
虚偽報告
ねらい実際の損害と離れた返還は、争いのもとになります。
炎上時の損害
ねらい青天井の賠償の約束は、個人には履行できず、実効性がありません。
起案前のヒヤリングで確認すること
結論として、起用の契約を作る前に確認しておくことは、「誰が誰と契約するのか」「投稿をどこまで使うのか」「炎上のときに誰が止めるのか」の三つです。その理由とあわせて挙げます。
起用の契約を作る前に確認すること
- 起用するのは、広告主ご自身ですか、運用代行会社が手配しますか。直接契約型か手配型かで、条項の置き場所と責任の線引きが変わるためです。
- インフルエンサーは個人ですか、会社ですか。従業員はいますか。個人(従業員を使用しない)ならフリーランス法の明示、支払期日、減額・やり直しの規律が重なるためです。
- 報酬は固定ですか、成果連動ですか。成果は何で数え、誰のデータで確認しますか。数え方と確認の手段を決めないと、請求の段階で数字が合わないためです。
- 投稿の確認をする担当者は誰で、何日以内に返答できますか。確認者と期限が決まらないと、投稿が遅れ、修正が終わらなくなるためです。
- 投稿を広告や自社サイトに使う予定はありますか。期間と媒体は。二次利用の範囲と対価を、あらかじめ決めておくためです。
- 商品の提供のみの依頼はありますか。送付先の個人情報はどう管理しますか。無償でも広告としての表示が必要になり、個人情報の取扱いの定めも要るためです。
- 炎上したとき、誰が非公開にする権限を持ちますか。連絡が取れない時間帯はありますか。取下げの期限と手順を、現実の運用に合わせるためです。
回答は、契約書だけでなく、運用の手順書にも反映しておくと、実際の運用との食い違いを防げます。
起きがちなこと:起用の契約で起きがちな場面
ここまでの論点のうち、条項を決めていないために現場で起きやすい場面を並べます。
よくあるご質問
運用代行会社に頼めば、インフルエンサーの手配もしてもらえますか?
運用代行の契約書では、インフルエンサーとの交渉や出演者の手配が業務外として列挙されることが多く、頼むなら別の合意が必要です。手配を頼む場合は、選定・連絡調整の範囲と報酬、本人との契約を誰が結ぶのかを決めます。
インフルエンサーへの報酬は、固定と成果連動のどちらがよいですか?
どちらにも長所と短所があります。固定は成果が出なくても支払いが発生し、成果連動は成果の定義と計測の手段で争いになりやすいので、併用する場合は、固定部分が前払いなのか別建てなのかを書きます。
投稿の著作権は、広告主が持つべきですか?
本人に残し、広告主には使える範囲を目的・媒体・期間・加工・再許諾で限って許諾する形が基本です。広告への転用や期間の延長は、別途の対価を定める方法があります。
炎上したとき、インフルエンサーに投稿を取り下げさせられますか?
契約に取下げの事由、期限、範囲を書いていれば、それに沿って求めることができます。本人の責めに帰すべき事由がない取下げでは、報酬の減額が問題になり得るため、原因ごとに報酬の扱いを決めておきます。
商品を渡すだけで投稿してもらう場合も、契約は必要ですか?
必要です。商品の提供は投稿の対価になり得るため、広告であることの表示、投稿の確認、取下げの条項は有償の場合と同様に要ります。送付先の個人情報の取扱いも決めます。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引に必要な対応は、当事者の規模、顧客が事業者か個人か、契約内容、報酬の決め方などによって異なります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は官公庁の公表資料で確認しています。参考: e-Gov法令検索 / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会) / ステルスマーケティングに関する消費者庁の案内 / 景品規制の概要(消費者庁)