このページの要点
- 広告の運用は投稿の運用と別の業務として書き、広告アカウントの所有と管理は顧客、受託者には作業に必要な権限だけを渡す。
- 広告費は報酬と別で、原則は顧客が媒体に直接払う。立替を認めるなら、上限・前払・期日経過時の停止を定める。
- 手数料は「何の何パーセントか」を特定し、広告費が少ない月の最低額と、予算を増やすときの承認を決める。
- 審査落ちや停止は、顧客の提供物・受託者の作業・媒体の判断に原因を分け、停止期間の報酬と広告費の戻り方を決める。
最初に結論:広告の運用を契約に足すなら、「アカウント」「お金」「止まったとき」を投稿の運用とは別に決める
SNSの運用代行を頼んで(あるいは受けて)しばらくすると、「投稿だけでなく広告も回してほしい」という話が出てきます。ここでいう広告は運用型広告、つまり予算・入札・配信の対象・広告文や画像を、配信しながら日々調整していく広告です。投稿の運用が顧客の公式アカウントに投稿を積み上げる仕事であるのに対し、広告の運用は、媒体(広告を配信するSNSの運営会社)にお金を払い、媒体の審査を通し、数字を見ながら調整する仕事です。
契約書で決めておくことは、次の5点に絞れます。
- 業務の範囲:広告の運用は投稿の運用とは別の業務として、対象の媒体・予算・報告の頻度・含まないものを書く。
- アカウント:広告アカウントの所有と管理は顧客。受託者には広告の作成と閲覧に必要な権限だけを渡し、支払手段には触れさせない。
- 広告費:報酬とは別の費用。原則は顧客が媒体に直接払う。受託者の立替を認めるなら、上限・前払・止める条件を決める。
- 手数料:「何の何パーセントか」を特定し、広告費が少ない月の最低額と、予算を増やすときの承認を決める。
- 止まったとき:審査落ちや停止の原因を、顧客の提供物・受託者の作業・媒体の判断に分け、停止期間の報酬と広告費の戻り方を決める。
この記事では、このうち広告に固有の部分を扱います。投稿用アカウントのログイン方法や二段階認証はSNS運用代行のアカウント管理のページ、成果報酬の型とフリーランス法の支払期日の基本は成果報酬とフリーランス法のページで解説しています。本文中の金額は計算を分かりやすくするための例で、すべて税別の数字です。
運用代行に広告の運用を足すとき、投稿の運用とは何が違うのか
広告を「投稿運用の延長」として、業務の条に一行足しただけの契約は、実務でよく見られます。けれども広告は、決めるべき事項の種類が違います。
投稿の運用と広告の運用の違い
| 項目 | 投稿の運用 | 広告の運用 | 契約書で決めること |
|---|---|---|---|
| お金の流れ | 報酬が中心。顧客が媒体に払う費用は通常ない | 報酬のほかに、媒体へ払う広告費が毎日発生する | 広告費の負担者、手数料の基礎 |
| 止まる原因 | 投稿の削除、アカウントの制限 | 個別の広告の審査落ち、広告アカウントの停止、支払手段の不具合 | 原因別の責任、停止期間の報酬 |
| 内容の責任 | 顧客の承認を経て投稿する | 価格・効果・比較の表現が、媒体の審査と法令の両面で見られる | 遷移先を含めた責任、止める権限 |
媒体ごとに管理画面の名称や権限の種類は異なります。契約書では、特定の機能名に頼らず、行為の種類で権限を書くのが無難です。
そこで、投稿の運用の基本契約はそのままにして、広告の運用は個別契約(または別紙)として、対象の媒体、運用するアカウント、広告期間、予算、報酬を書く形が整理しやすくなります。受託者の側の契約書には、広告の運用を、別途発注されて受託者が承諾した場合に限り個別契約として行う業務とし、基本の業務から外す例があります。
含まない業務も具体的に並べます。広告用の画像・動画の制作、広告のクリック先のページの制作・改修と計測タグの実装、広告表現の法令適合の審査、注文の対応などです。含まない作業が成果に直結することもあるため、「顧客が自ら行う、又は別途依頼する」と添えておくと、期待のずれを防げます。
準委任として、何を約束し、何を約束しないのか
広告の運用は、ふつう準委任契約(法律行為でない事務を委託する契約。民法656条、643条)として組み立てます。受託者は善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務を負いますが(民法644条)、獲得件数や費用対効果という結果を約束する契約ではありません。クリック数・獲得件数・売上・審査の通過・配信の継続を保証しないことを書くのが一般的です。
ただし、結果を保証しないことと、設定や入稿の誤りまで免責することは別です。受託者の側の契約書の中には、広告の公開後に掲載された内容について一切責任を負わない、と書くものがあります。発注者の立場で確認すると、ターゲティングの設定誤りや誤入稿まで免責される読み方になる、という指摘になります。顧客が承認した内容に基づく場合を除き、設定・入稿・運用上の誤りは受託者が責任を負う、と書けば、結果は保証しないが作業の誤りは負担する、という線を引けます。
広告アカウントは誰のものか:投稿用アカウントとの関係と、終了時の止め方
広告アカウントとは、媒体の広告管理画面で、広告・予算・支払手段・配信の履歴・計測の設定をまとめる単位です。原則は、所有と管理は顧客、受託者には作業に必要な権限だけ、という整理です。受託者の名義で作ったアカウントから配信すると、契約が終わったときに、配信の履歴や蓄積した設定を顧客の手元に残せません。
広告の「顔」になる投稿用アカウントとの連携
SNSの広告は、多くの場合、顧客の公式アカウント(投稿用アカウント)の名前で表示されます。媒体によっては、広告管理画面のアカウントと公式アカウントを連携させる必要があり、連携の方法や必要な権限は媒体ごとに異なります。問題になるのは、受託者が自分の広告用アカウントから、顧客の公式アカウントと連携して配信してしまうやり方です。配信は動いても、広告の履歴や計測の設定が受託者の側に残り、終了時に引継ぎができません。契約書には、広告アカウントは顧客が所有者・管理者となる方法で作成し、公式アカウントとの連携も顧客の権限で行うと書きます。
受託者に渡す権限・渡さない権限の線引き(設計例)
- 渡す:広告の作成・編集・一時停止、承認された予算の範囲内での配信設定の調整、成果の閲覧とレポートの出力
- 渡さない:支払手段の追加・変更・削除、管理者の追加・削除、アカウント自体の閉鎖、課金の上限の引上げ
- 予算の増額は、顧客の事前承認を得た場合のみ
支払手段に触れない運用にしておくと、請求額に疑問が出たときに、受託者が操作していないことを説明しやすくなります。
顧客リスト・計測タグと、個人データ
広告では、顧客が持つメールアドレスなどのリストを配信対象の作成に使ったり、顧客のサイトに計測用のタグを入れたりすることがあります。リストが個人データに当たる場合、受託者は個人データの取扱いの委託を受ける立場になり、顧客には委託先に対する必要かつ適切な監督が求められます(個人情報保護法25条)。委託に伴う提供先は、第三者提供の制限でいう「第三者」に当たりません(同法27条5項1号)。ただし、リストを媒体に預ける処理が媒体の利用条件の下でどう整理されるかは、媒体や使い方で変わり得るため、断定できません。契約書には、リストを目的外に使わない、自分の端末に残さない、終了時に削除する、漏えいのおそれを知ったら直ちに報告する、という受託者の約束を書きます。
広告アカウント等の帰属と権限(条文例)
1広告アカウント、これと連携する委託者の公式アカウント、計測用のタグ及び広告配信に用いる顧客リストは、委託者に帰属する。広告アカウントは、委託者が所有者及び管理者となる方法で作成する。
2委託者は、受託者に対し、広告の作成、編集、一時停止、承認された予算の範囲内の配信設定及び成果の閲覧に必要な範囲の権限を付与する。支払手段の追加、変更若しくは削除、管理者の追加若しくは削除、アカウントの閉鎖又は課金の上限の引上げに関する権限は、委託者が書面又は電磁的方法で個別に承諾した場合を除き、付与しない。
3受託者は、広告配信に用いる顧客リストを、本業務の目的以外に使用せず、本契約の終了時に削除して、その旨を委託者に報告する。
契約を終えるときの止め方
終了時の手順(設計例)
- 1配信の停止終了日に合わせて広告を止める。予約配信や自動ルールが終了後も動かないか確かめる
- 2費用の確定終了日までの広告費と、媒体からの最後の請求の見込みを確認する
- 3支払手段の整理受託者のカード等が登録されていれば、顧客が自分の支払手段に替え、受託者のものを外す
- 4権限と連携の解除受託者の権限を削除し、受託者側のアカウントとの連携があれば解除する
- 5引継ぎ配信設定の一覧、広告の素材、レポートを一般的な形式で渡す
終了時に最も見落とされやすいのは、支払手段です。顧客の広告アカウントに受託者のカードが登録されたままだと、終了後の配信や、遅れて確定した費用が、受託者のカードに請求されることがあります。終了の手順に、支払手段の差替えと確認を書いておきます。
広告費は誰が払うのか:直接払いと立替で、未回収の額はこれだけ違う
広告費は、報酬とは別の費用で、顧客の負担です。原則は、顧客の名義の支払手段を媒体に登録し、顧客が媒体に直接払う形にします。この形なら、受託者の危険は報酬の未払いだけで、広告費の未回収は生じません。受託者が立て替える場合は、立替が積み上がらない仕組みを入れます。
委任の規定には、費用を要するときの前払の請求(民法649条)と、必要と認められる費用を支出したときの償還請求(民法650条1項)があり、準委任にも準用されます(民法656条)。ただ、いくらを、いつ、どの上限までという具体的な線は、契約で決めないと「そんな額は承認していない」という争いになります。
立替が積み上がる速さ:計算例
月の広告費が50万円、手数料が広告費の15%(7万5,000円)の契約を例にします。手数料が広告費に連動する契約では、立替の未回収額は手数料の「1÷料率」倍、この例では約6.7倍で、しかも立替は月をまたいで積み上がります。
月末締め・翌月末払いの契約で、顧客の入金が止まった場合
| 時点 | 立て替えた広告費の累計 | 受け取れていない手数料の累計 | 説明 |
|---|---|---|---|
| 1か月目の末日 | 50万円 | 7万5,000円 | 1か月目の分が請求書になる |
| 2か月目の末日(1か月目分の期日) | 100万円 | 15万円 | 1か月目分が入金されないまま、2か月目分が加わる。期日の翌日に止めても、100万円は残る |
配信は毎日動くため、請求書が出る月末を待つあいだにも立替は増えます。停止の判断を、期日を過ぎたその日にできるよう書いておくことが、損失を抑える鍵です。
広告費の支払方式の比較
| 方式 | お金の流れ | 受託者の危険 | 書いておくこと |
|---|---|---|---|
| 直接払い | 顧客の支払手段を媒体に登録し、媒体が顧客に請求する | 広告費の未回収は生じない | 支払手段が顧客名義であること、支払手段の不具合で止まっても受託者の責めではないこと |
| 前払(預り金) | 顧客が月初などに広告費相当額を預け、受託者が媒体へ払って月末に精算する | 預り金の範囲内なら未回収は生じない | 預り金の額、不足時の停止、残額の繰越しと終了時の返還 |
| 承認予算内の立替 | 受託者が先に払い、請求書で顧客に請求する | 請求から入金までのあいだ、立替が積み上がる | 月額予算、立替残高の上限、期日経過時の停止、明細の交付 |
| 上限のない立替 | 受託者が上限なく払う | 入金が止まれば全額が未回収 | 避ける |
広告費の負担と立替(受託者の側から見た条文例)
1広告費(媒体に支払う広告の掲載及び配信の費用をいう。以下同じ。)は、受託者の報酬に含まれず、委託者の負担とする。
2委託者は、自己の名義の支払手段を媒体に登録し、広告費を媒体に直接支払う。
3前項にかかわらず、委託者が書面又は電磁的方法で承諾した場合に限り、受託者は、承認された月額予算の範囲内で広告費を立て替えることができる。この場合、受託者は、立替残高が( )円を超えるおそれがあるときは、直ちに委託者に通知する。
4受託者は、前項の立替に先立ち、承認された月額予算の( )か月分に相当する額の前払を請求することができる。前払が確認できないとき、又は委託者が支払期日までに立替金を支払わないときは、受託者は、催告なく広告の配信を停止することができる。
5媒体から払戻し、調整その他の名目で受託者に返戻された金銭は、受託者が受領した後、遅滞なく委託者に引き渡し、又は立替金と精算する。
5項は、受け取った金銭は委任者に引き渡すという民法646条1項の考え方を当てはめたものです。立替残高の上限や前払の月数は、顧客の支払状況と月の予算に合わせます。
承認した予算と、実際の広告費のずれ
運用型広告は、入札の結果によって日々の消化額が動くため、実際の広告費が承認した予算とぴったり一致するとは限りません。受託者の側の契約書には、課金の仕組み上、実際の広告費が承認した予算と完全には一致しない場合があることを顧客が了承する、と書くものがあります。わずかな超過を理由に支払を拒まれないための一文です。顧客の側は、承認された予算の枠を超えないこと、超過のおそれを知ったら直ちに報告することを、受託者の義務にします。
手数料はどう決めるか:基礎・最低額・予算を増やすときの承認
広告の運用の報酬は、広告費の一定割合とする形が多く見られます。争いになるのは、料率の高低より、「何の何パーセントか」が書かれていないときです。確認したいのは、管理画面に表示される消化額か、媒体から実際に請求された額か(媒体側で、あとから課金が調整されたり返戻されたりすることがあります)、制作費やツールの利用料を含めるか、税別か税込か、の3点です。「媒体が請求した広告の掲載及び配信の費用(税別)」のように、あとから書類で確かめられる形で特定し、制作費などの実費は別に列挙します。
最低手数料:広告費が少ない月と、配信がない月
広告費が10万円の月も50万円の月も、アカウントの見直しやレポートの作成といった作業量は大きく変わりません。料率だけで計算すると、広告費を絞った月に手数料だけが減る採算割れが起きるため、最低手数料を置きます。
料率15%・最低手数料3万円の場合の手数料
| その月の広告費 | 料率だけで計算 | 最低手数料を適用した額 | 実際の料率 |
|---|---|---|---|
| 0円(配信なし) | 0円 | 0円または3万円(配信がない月の扱いで決まる) | 計算できない |
| 10万円 | 1万5,000円 | 3万円 | 30% |
| 20万円 | 3万円 | 3万円 | 15% |
| 50万円 | 7万5,000円 | 7万5,000円 | 15% |
広告費が20万円(最低手数料と料率計算が一致する額)を下回る月だけ、実際の料率が上がります。
配信がない月の扱いは決めておく必要があります。配信を一時停止した月も最低額を払うと書く契約書があります。顧客の都合で止めた月ならそれで筋が通りますが、審査落ちや媒体による停止で配信できなかった月まで同じに扱うと争いのもとになります。この点は次の章で扱います。
広告費が増えるほど手数料も増える構造
手数料が広告費に連動する契約では、受託者が「予算を増やしましょう」と提案するたびに、受託者の手数料も増えます。顧客はこの構造を意識せざるを得ず、受託者の側も、提案の動機を疑われかねません。契約書に、予算の増額は顧客があらかじめ書面又は電磁的方法で承認した場合に限ること(承認できる担当者も指定します)、増額を提案するときは獲得単価など判断の材料を添えること、広告費が一定の額を超える月は料率を協議すること、の3点を置いておくと、お互いに説明がつきます。
個人の外注先に広告の運用を出すときの注意
顧客から受けた広告の運用を、個人のフリーランスの運用者に再委託する代行事業者もあります。従業員を使用している事業者などは、フリーランス法の特定業務委託事業者(同法2条6項)に当たり、報酬の支払期日は、役務の提供を受けた日から60日以内で、できる限り短い期間内に定める必要があります(同法4条1項)。委託が1か月以上のときは、特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに報酬の額を減ずることも禁止されます(同法5条1項2号)。
起きやすいのは、顧客から手数料を減額された、あるいは審査落ちで広告が止まったので、外注先の報酬も同じ割合で減らす、という連動です。外注先の報酬を最初から「広告費の○パーセント」と決め、広告費が減った結果として下がるのは算定式どおりの計算ですが、いったん定めた報酬を元の顧客との関係を理由に後から減らすのは別の問題で、外注先に責めがなければ減額と評価されるおそれがあります。外注先に広告費を立て替えさせる設計も、未回収の危険を個人に移すため避けます。再委託全般は業務委託契約書の作り方のページで扱っています。
審査落ち・配信停止・アカウント制限が起きたとき、誰がどこまで負うのか
広告は、配信の前に媒体の審査を受け、配信の後も媒体の基準で見られ続けます。「止まった」という一つの出来事として書くと、原因も、報酬も、広告費も決められなくなります。止まり方は、少なくとも次の4つに分けて考えます。
広告が止まる4つのパターン
| パターン | 何が起きるか | 原因として多く見られるもの | 決めておくこと |
|---|---|---|---|
| 個別の広告の審査落ち | 広告の単位で配信されない | 広告文・画像・クリック先の内容 | 再入稿の回数と費用 |
| 広告アカウントの停止・制限 | すべての広告が止まる | 不承認の繰り返し、支払の問題 | 異議申立ての主体、停止期間の報酬 |
| 支払手段の不具合 | 決済できず配信が止まる | カードの限度額・有効期限 | 支払手段は誰のものか |
| 配信後の指摘・削除 | 配信中に指摘を受け、修正が必要になる | 表示の法令適合、第三者の権利 | 止める権限、通知の手順 |
名称や運用は媒体ごとに異なります。
原因を3つに分けて、責任を決める
停止や不承認の原因は、(A)顧客が提供したもの(素材、商品、クリック先のページ、表示の根拠資料)、(B)受託者の作業(設定、入稿、運用の方法。媒体の規約に反する方法を使った場合を含む)、(C)媒体の判断(基準の変更や、理由の示されない措置)、の3つに整理できます。受託者の側の契約書の中には、媒体の審査で不承認となっても、受託者の指示や素材に基づく場合を含め、一切責任を負わないと書くものがあります。発注者の側から見れば、(B)まで免責される書き方です。3つに分けて責任を割り振ると、双方が署名しやすくなります。(B)と(C)は外からは区別しにくいため、媒体からの通知を双方が見られる場所に保存する手順も添えます。
停止している期間の報酬
広告費に連動する手数料は、配信が止まれば広告費がゼロになり、手数料もゼロになりますが、受託者は再審査への対応や設定の見直しを続けています。月額で固定する形では、停止中も全額を請求できるのか、という問題が生じます。広告を含む運用代行契約には、停止期間中の運用費用について、日割りでの返金の要否と範囲を協議して決める、と定める例があります。協議と書くだけでは肝心の線が決まらないため、原因が(C)のときの減額の方法を、あらかじめ数字で書いておきます。月額10万円の固定報酬で、媒体の判断により月の10日間停止した場合の例です。
- 日割額:10万円÷30日×10日=3万3,333円(1円未満切捨て)
- 日割額の半分を減額する場合(停止中も再審査への対応が続いたことを考慮):3万3,333円×50%=1万6,666円(1円未満切捨て)を減額し、8万3,334円を請求
減額の割合は、停止中に受託者が実際に行う作業の量で決めます。割合と計算方法を書くことと、停止が一定期間以上続いたときにどちらからでも解約できる道を残すことが要点です。審査落ちのたびの再入稿も工数ですが、原因(A)の再入稿は別料金、原因(B)の再入稿は無償、という区分がそのまま費用の区分になります。
広告費の戻り方と、停止後の再開
停止や不承認で配信されなかった分が請求されるのか、事前にチャージした残高が戻るのかは、媒体の条件で異なります。契約書では、戻ってきた金銭の行き先を決めておきます。受託者が立替で払っていたなら立替金と精算し、顧客が直接払いしていたなら顧客に戻ります(民法646条1項の考え方)。
アカウントが停止されたとき、別のアカウントや別の名義で同じ広告を出し直したくなることがありますが、媒体の規約が禁じていることがあり、さらに重い措置を受けるおそれもあります。顧客の事前の承諾なく再開しないことを書き、異議申立ては名義人である顧客が行い、受託者は資料の作成に協力する、という分担にします。
配信の停止・不承認・制限があったとき(条文例)
1媒体による広告の不承認、配信の停止、広告アカウントの制限その他の措置(以下「停止等」という。)が生じたときは、当事者は、これを知った後直ちに相手方に通知し、媒体から届いた通知の内容を共有する。
2停止等の原因が、委託者の提供した素材、商品、遷移先のページ又は表示の根拠資料にあるときは、受託者は責任を負わず、再入稿に要する作業は追加業務とする。
3停止等の原因が、受託者の設定、入稿又は運用の方法(媒体の規約に反する方法を含む。)にあるときは、受託者は、再入稿を無償で行い、委託者に生じた通常かつ直接の損害を、第○条に定める上限の範囲内で賠償する。ただし、受託者に故意又は重大な過失があるときは、同条の上限を適用しない。
4停止等の原因が媒体の判断にあり、いずれの当事者の責めにも帰することができないときは、受託者は責任を負わない。この場合、停止等により運用できない期間の月額報酬は、日割計算した額の( )%を減額する。停止等が( )日以上継続したときは、各当事者は、書面又は電磁的方法による通知により、個別契約を解除することができる。
5異議申立てその他の媒体に対する手続は、アカウントの名義人である委託者が行い、受託者は、必要な資料の作成に協力する。受託者は、停止等の後、委託者の事前の承諾なく、別の広告アカウント又は別の名義により、同種の広告の配信を再開してはならない。
減額の割合や解除できるまでの日数は、取引の実態に合わせて調整します。3項の上限は、契約全体の損害賠償の条に置く上限と同じものを指します。
広告の内容は、誰が止められるのか
広告の内容が景品表示法や薬機法などに照らして問題になりうる場合、表示の責任を第一に負うのは広告主である事業者ですが、規制によっては広告を作る側も名宛人になり得ます。受託者の側の契約書では、表示の内容や商品の適法性は顧客が確認し、受託者は法務の意見を提供する義務を負わないとしたうえで、受託者が違反のおそれを認めて修正や停止を求めたのに顧客が従わないときは、業務を停止し、または解除できる、と定めるものがあります。発注者の側からは、顧客が問題ないと判断すれば受託者の責任が免れる構造は不十分で、明らかに違法性があるときは運用を拒否できると明記すべきだ、という指摘が出ます。調和させるなら、受託者は法務審査の義務は負わないが、明らかな違反のおそれを認識したときは、顧客に通知し、修正を提案し、配信を保留できる、と書くのが一つの形です。
広告の内容の承認は、投稿より重く扱います。価格・効果・比較・体験談の表現と、広告であることの表示は、期限までに回答がなければ承認したものとみなす方式の対象から外します。承認の手順の全体は投稿承認と炎上時の対応のページ、広告であることを隠す表示の問題はステマ規制のページ、キャンペーンの告知を広告として出すときの景品表示法はキャンペーンの応募規約と景品表示法のページに整理があります。広告の画像や動画に使う素材の権利は著作権と素材のページをご覧ください。
よくある失敗と直し方
広告の運用を含む契約書では、同じ型の問題が繰り返されます。よく見られる書き方と、整えた書き方を並べます。
SNS広告の運用代行契約でよく見られる書き方と整え方
広告費の負担
ねらい「誰が払うか」が書かれていないと、運用の都合で受託者のカードが使われ、未回収額が報酬を大きく上回ります。
手数料の基礎
ねらい「広告運用費」の定義がないと、請求のたびに範囲の確認が必要になります。
配信データの帰属
ねらい著作権だけを書いても、広告アカウントに溜まった履歴や分析結果の帰属は決まりません。
支払が遅れたとき
ねらい協議だけでは、協議しているあいだも広告費が積み上がります。
契約前にヒヤリングで確認すること
広告の運用を契約に足す前に確認しておくことと、その理由を挙げます。答えによって、権限、広告費の払い方、報酬の定め方が変わります。
広告の運用を契約に足す前に、確認すること
- 広告アカウントはすでにありますか。ある場合、誰の名義で、誰が管理者ですか。公式アカウントを広告の「顔」にしますか。過去の運用者が作ったアカウントだと、名義や権限が前任者の側にあり、引継ぎが先に必要になります。連携の方法も決まります。
- 広告費の支払手段は誰のどの手段ですか。月の予算はいくらで、超えそうなときは誰が承認しますか。直接払いか立替かが決まり、立替なら上限と前払の額を決める材料になるためです。
- 過去に審査落ちや停止を受けたことはありますか。広告のクリック先は、誰が管理するページですか。過去の経緯や、クリック先のページの内容は審査に影響しうるうえ、原因(A)の中心になりやすいためです。
- 報酬は広告費に連動しますか、固定ですか。広告費が少ない月や配信がない月はどうしますか。最低手数料と、停止期間の報酬の定めが必要かどうかが決まるためです。
起きがちなこと:広告が止まった日と、費用がふくらんだ月
よくあるご質問
SNS広告の運用代行を頼むとき、広告費は誰のクレジットカードで払うべきですか?
原則は、広告の主である顧客の名義の支払手段を媒体に登録し、顧客が媒体に直接払う形です。受託者が立て替える場合は、顧客の承諾、月額予算の範囲、立替残高の上限、前払、期日を過ぎたときの配信停止を契約に書きます。手数料が広告費に連動する契約では、立替の未回収額が手数料の数倍になるためです。
広告が審査に通らなかったとき、運用代行の事業者に責任はありますか?
原因によります。顧客が提供した素材やクリック先のページに原因があれば受託者は責任を負わず、受託者の設定や入稿、媒体の規約に反する運用方法に原因があれば、受託者が再入稿を無償で行い、損害の賠償を負うことがあります。媒体の判断で双方に責めがないときは、報酬の調整を定めておきます。原因で分けて契約に書くのが基本です。
広告アカウントが停止された間も、運用の手数料は払う必要がありますか?
契約に定めがなければ争いになりやすい点です。広告費に連動する手数料は、配信が止まれば手数料もゼロになりやすい一方、受託者は再審査への対応を続けています。月額固定なら、停止の原因が媒体の判断にあるときは、停止日数に応じた日割りで一部を減額するなど、割合と計算方法をあらかじめ決めておきます。
広告費に連動する手数料で、広告費が少ない月はどうすればよいですか?
最低手数料を置きます。広告費が少なくても、見直しや素材の提案、レポートの作業はほとんど変わらないためです。あわせて、手数料の基礎を「媒体が請求した広告費(税別)」のように特定し、制作費やツール利用料は含めないこと、配信がない月の扱い、予算を増やすときの顧客の承認を書いておきます。
契約が終わったとき、広告について何を確認すべきですか?
広告の配信停止、終了日までの広告費の確定、広告アカウントに登録された支払手段の差替え、受託者の権限と連携の解除、配信設定や素材の引継ぎの5点です。特に、受託者のカードが顧客の広告アカウントに残っていないかを確認します。配信データの帰属と、顧客リストの削除も契約に書いておきます。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引に必要な対応は、当事者の規模、顧客が事業者か個人か、契約内容、報酬の決め方などによって異なります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は官公庁の公表資料で確認しています。参考: e-Gov法令検索 / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会) / ステルスマーケティングに関する消費者庁の案内 / 景品規制の概要(消費者庁)