SNS運用代行の業務委託契約書に入れるべき条項

SNS運用代行の契約書は「何を・どこまで・いくらで・いつまで」を決める書面です。依頼する側・受ける側のどちらの立場でも使えるよう、条項ごとに決めておくべき内容を整理します。

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ネットで拾ったひな形の「業務委託契約書」をそのまま使うと、アカウントの権限、投稿の承認、成果の定義といった、SNS運用ならではの項目がすっぽり抜け落ちます。
運用代行の契約は、多くの場合「運用という業務を遂行する部分」と「投稿物を制作して納める部分」が混ざった契約です。どちらの性質が強いかで、何をもって仕事を果たしたと言えるか、不具合があったときに誰が何をするかが変わります。最初にこの性質を意識して条項を組み立てます。

「運用」と「制作」で、責任の考え方が変わる

アカウントの運用、分析、コメント対応のように、一定の業務を行うこと自体を引き受ける部分は、民法上の準委任に近い性質を持ちます。準委任では、受託者は結果を保証するのではなく、専門家として求められる注意を払って業務を行う義務(善管注意義務)を負います。

一方で、「月12本の投稿画像を制作して納める」のように完成品の納品を約束する部分は、請負に近い性質を持ちます。請負では、完成した成果物が契約の内容に適合していないとき、修補や報酬の減額などを求められる可能性があります(契約不適合責任)。

実際の運用代行契約は、この2つが混ざっていることがほとんどです。契約書では、どの業務が「遂行」で、どの業務が「納品」なのかを分けて書くと、後で責任の範囲を説明しやすくなります。

運用代行契約に入れるべき条項の一覧

主な条項と、決めておく内容
条項決めておく内容抜けていると起きやすいこと
業務範囲対象の媒体、投稿本数、リール・ストーリーズの有無、コメント・DM対応、広告運用、レポートの頻度、修正の回数「それも込みだと思っていた」という追加作業の押し付け合い
報酬・支払月額か成果報酬か、計算方法、請求と支払の期日、広告費の扱い支払の遅れ、広告費の立替をめぐる争い
契約期間・更新開始日、期間、自動更新の有無、更新しない場合の通知期限終わったつもりの契約が続いていた
中途解約予告期間、解約月の報酬の精算、制作途中の投稿の扱い突然の解約と、作業済み分の報酬の未払い
投稿の承認投稿前に依頼者の確認を取るか、確認期限、期限を過ぎた場合の扱い炎上・誤表記の責任の所在が不明確になる
著作権投稿物の権利の帰属、利用を認める範囲、実績公開の可否契約終了後に過去の投稿を使えない
アカウント・データアカウントの名義、ログイン情報の管理、権限の付与と削除、終了時の引継ぎパスワードを変えられない、分析データが残らない
再委託外部のデザイナー・編集者に任せてよいか、事前承諾の要否、再委託先の責任知らない第三者がアカウントに触れていた
秘密保持未公開のキャンペーン、顧客情報、取引条件の扱いと、終了後の存続期間戦略や数値の外部流出
損害賠償賠償の範囲と上限(例: 直近数か月分の報酬額)、故意・重過失の扱い報酬に見合わない高額の請求
プラットフォームの変更・凍結仕様変更、アルゴリズム変更、アカウント停止が起きた場合の責任と報酬運用者の責任ではない事情まで責任を問われる

業務範囲は「数」と「頻度」で書く

「SNSの運用全般」「集客のサポート」といった書き方は、後で必ず解釈が分かれます。業務範囲は、媒体ごとに次のような数と頻度で書くのが基本です。

  • フィード投稿は月8本、リールは月4本、ストーリーズは週3回
  • コメント返信は平日のみ、投稿後48時間以内、DM対応は含まない
  • 月次レポートを翌月10日までに提出、オンライン定例会は月1回60分
  • 投稿画像の修正は1投稿につき2回まで、3回目以降は別途見積り

あわせて、業務範囲に含まれないもの(撮影、広告費、インフルエンサーの手配など)も書いておくと、追加費用の説明がしやすくなります。

中途解約と、作業済み分の精算

準委任に近い契約は、民法上、当事者がいつでも解除できるのが原則です(民法651条1項)。ただし、相手方に不利な時期に解除した場合などには、損害を賠償しなければならないことがあります(同条2項)。いつでも解除できることを前提にしつつ、契約書では次の点を決めておくのが実務的です。

  • 解約の予告期間(例: 解約希望月の前月末日までに通知)
  • 解約月の報酬を日割りにするか、月単位で発生させるか
  • 制作途中の投稿や、撮影済みの素材の扱い
  • アカウント権限の返還とログイン情報の変更の期限

アカウントの名義と権限は、依頼者側に置く

アカウントは原則として依頼者の名義で作成し、運用代行業者には管理者権限やサブアカウントの権限を付与する形にします。運用代行業者の個人アカウントで広告アカウントやビジネス管理画面を作ってしまうと、契約が終わったときに引き継げなくなることがあります。

当事務所が点検する運用代行契約で多いのが、アカウントのログイン情報をメッセージで送ってそのまま運用させ、終了時の扱いが何も書かれていないケースです。二段階認証の設定者、パスワードの変更者、権限を削除する期限まで契約書に書いておくと、終了時のトラブルを防げます。

個人に委託するなら、フリーランス法の取引条件明示を

従業員を使用しない個人や一人社長の法人に運用代行を委託する場合、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)の対象になり得ます。対象となる場合、委託する側は、業務の内容、報酬の額、支払期日などの取引条件を、書面または電子メール等で直ちに明示しなければなりません。契約書を交わしていれば、その中にこれらの事項が漏れなく入っているかを確認します。報酬の支払期日のルールについては「成果報酬とフリーランス法」で解説しています。

依頼する側も、受ける側も、同じ契約書を見て「何をすれば仕事を果たしたことになるか」を同じように説明できるか。これが、運用代行契約が機能しているかどうかの目安です。

よくあるご質問

口約束やチャットのやり取りだけでも契約は成立しますか?

契約は口頭やメッセージでも成立します。ただし、業務範囲や報酬、解約の条件を後から証明するのは難しくなります。個人に委託する場合は、フリーランス法により取引条件を書面または電子メール等で明示する義務が生じることもあります。

ひな形の業務委託契約書をそのまま使っても大丈夫ですか?

一般的なひな形には、アカウントの権限、投稿の承認、成果の定義、プラットフォームの仕様変更といった、SNS運用に特有の項目が入っていないことがほとんどです。実際の業務の流れに合わせて追記・修正して使います。

中途解約を一切できないと定めることはできますか?

準委任に近い契約は、民法上いつでも解除できるのが原則です。解除そのものを一切禁じるよりも、予告期間と精算方法を定めておく方が実務的です。

損害賠償の上限を決めておくべきですか?

運用の結果として生じる損害は予測しにくいため、受け取る報酬に見合った上限を定めておくことが多いです。ただし、故意や重大な過失による損害まで制限できるとは限りません。

あわせて読みたいページ

本ページは一般的な情報提供です。個別の取引に必要な対応は、委託先の規模、契約内容、報酬の決め方などによって異なります。参考: 公正取引委員会 フリーランス法 / 消費者庁 ステルスマーケティング規制 / 文化庁 著作権

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