このページの要点
- 規約が委ねる事項を一覧にし、申込書に記入欄を設けるか、規約に既定値を置いて例外だけ記入する。
- 運用開始後に残存期間分を含む総額100%を精算金とする条項は、減額・無効のおそれがある。逓減方式や上限を検討する。
- 定型約款に当たるかは取引の実態で決まる。版の表示と変更手続を定め、署名型の申込書に「みなし同意」の文言を使わない。
- 事業者確認の欄を設け、契約条件を変更できる人と方法を限定して、チャットの一言が特約になるのを防ぐ。
最初に結論:規約で受注するなら、申込書は「規約が委ねた事項の受け皿」にする
SNS運用代行を、顧客ごとに契約書を作るのではなく、「申込書+利用規約」の型で受注する事業者が増えています。申込書で顧客ごとの条件(プラン、本数、料金、期間)を決め、共通のルールは規約で決める、という分担は合理的です。ただし、この型には特有の落とし穴があります。規約が「申込書の備考欄で定める」と書いた事項について、申込書に記入欄がない、という矛盾です。
事務所がレビューした企業向けSNS運用支援の申込書・規約では、規約が承認の要否、納品の有無・範囲・形式、制作データの提供、実費の負担、動画以外の成果物の単価、更新の条件、解約の予告期間などを申込書の備考欄や個別の合意に委ねていました。ところが申込書に印字されていたのは、業務対応日・撮影の変更期限・回答期限・納品期限と「その他の個別条件」の空欄だけで、委ねた事項の大半について記入欄がありませんでした。しかも規約は、条件が定まるまで業務を「保留」し、保留を理由とする追加料金は発生しない、と定めていました。
記入欄がない事項が、紛争に至るまで
- 1欄がない納品物・実費・制作データの扱いが申込書で空白のまま締結
- 2都度協議チャットで協議し、合意内容を記録するとされている
- 3協議不成立回答がない、条件が折り合わない
- 4業務の保留規約上、追加料金なし・未確定の実費は請求しない
- 5支払拒否保留期間の月額料金の減額・支払拒否を求められる
契約書は、当事者の認識が食い違ったときに「どちらが正しいか」を決めるための書類です。認識が食い違いやすい事項ほど「合意がなければ保留」と判断を先送りする構造では、紛争になった時点で書類が答えを持っていません。このページでは、申込書と規約の役割分担、キャンセル料、定型約款、顧客が個人の場合、規約に入れる業務別の条項の順に整理します。
申込書と規約の役割分担:「記入欄方式」と「既定値方式」
規約が委ねる事項を受け止める方法は2つあります。①規約が委ねている事項ごとに、申込書にチェック方式の記入欄を設ける方法と、②規約本文に標準の取扱い(既定値)を定め、申込書には既定値と異なる扱いをする場合だけ記入する方法です。②の方が申込書を簡潔に保てます。
規約が申込書に委ねがちな事項と、受け皿の作り方
| 事項 | 記入欄方式 | 既定値方式の例 |
|---|---|---|
| 投稿前の承認 | 承認の要否・確認期限・再回答期限の欄 | 原則承認を要し、確認期限は受領日の翌営業日から3営業日 |
| 納品 | 投稿で完了か、完成データも納品するか、形式の欄 | 投稿をもって完了とし、完成データの納品は別料金 |
| 制作データ | 提供の有無・方法・料金の欄 | プロジェクトファイル等は提供しない |
| 実費 | 対象・負担区分・事前承認の基準額の欄 | 交通費は月額に含み、スタジオ・出演者・有料素材は事前承認のうえ別途請求 |
| 撮影のキャンセル | 時期ごとのキャンセル料の欄 | 3営業日前以降は所定の料率と、第三者に払うキャンセル料の実費 |
| 更新・予告期間 | 自動更新の有無・通知期限の欄 | 自動更新しない。継続する場合は新しい申込書を交わす |
| 保留中の料金 | 保留期間の月額料金の扱いの欄 | 顧客の回答遅れによる保留期間も月額料金は発生する |
「保留」を定めるなら、保留期間中の月額料金が発生するのか、翌月以降に繰り延べるのかを必ず書きます。
キャンセル料・中途解約の料率:段階料率と「100%条項」
規約型の受注で最も問題になるのが、キャンセル料の条項です。レビューした規約は、顧客都合の解約について、契約成立後キックオフ前は契約料金総額の10%、キックオフ後・制作着手前は50%、着手後・運用開始前は70%、運用開始後は100%を精算金とするものでした。「契約料金総額」は契約期間全体の固定料金の合計なので、運用開始の翌日に解約しても、残りの全期間分の料金を払わせることになります。
運用・助言の部分は準委任であり、各当事者はいつでも解除でき(民法651条1項)、解除した者が賠償を負う場面は限られています(同条2項)。動画制作の部分も、注文者は完成前ならいつでも損害を賠償して解除でき(民法641条)、賠償の範囲は支出済みの費用と得られたはずの利益から免れた費用を差し引いた額が基本になります。当事者は損害賠償額を予定でき(民法420条1項)、事業者間では予定額が原則として尊重されますが、現実に生じ得る損害とあまりにかけ離れた違約金は、公序良俗(民法90条)に反するとされ、減額される可能性があります。顧客が消費者と評価される場合は、解除に伴って事業者に生じる平均的な損害(同種の契約を基準に算定)を超える部分が無効になります(消費者契約法9条1項1号)。
キャンセル料の改訂の方向
料率の水準
ねらい紛争になると高すぎる料率は減額され、実際に回収できる額は限られます。署名をためらわせる要因にもなります。
判定時点と解約日
ねらい判定時点と解約日がずれていると、キックオフ前に「期間満了直前を解約日とする」通知を出せば、低い料率のままほぼ全期間のサービスを受けられると読む余地が生まれます。
債務不履行による解除
ねらい両者を区別しないと、顧客都合の料率が高すぎると判断されたとき、債務不履行の場面の精算まで同じ理由で争われます。
料率の段階を「キックオフミーティングの実施」「コンテンツの企画又は作成の着手」などで区切る場合、その言葉に定義がないと、企画書の提出・台本の作成・撮影の準備のどの時点で「着手」になるのかが争いになります。段階は、判定の基準となる事実(実施日、提出日)で定めます。中途解約の一般的な考え方は業務委託契約書のページでも扱っています。
定型約款に当たるか:事業者間でも民法548条の2・548条の4を意識する
民法の定型約款の規定が働くのは、ある者が不特定多数を相手に行う取引のうち、中身の全部または一部を画一的にすることが当事者双方にとって合理的なもの(定型取引)で、契約の内容にするために準備された条項の総体です(民法548条の2第1項)。定型約款に当たると、信義則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められる条項は、合意しなかったものとみなされます(同条2項)。変更が許されるのは、相手方にとって全体として利益になる変更か、契約の目的に反しないうえで、変更の必要性、変更後の内容の相当性、変更条項の有無などの事情から合理的といえる変更で、しかも効力発生時期を定めて周知した場合に限られます(民法548条の4)。
申込書で業務範囲・本数・料金・期間を顧客ごとに決める構造であれば、事業者間の取引として内容を画一的にすることが双方にとって合理的とまではいいにくく、定型約款に当たらない可能性が高いと考えられます。ただし、将来、顧客ごとの記入をせずにウェブ上で多数の小規模事業者に同じ条件で提供する形に移ると、定型約款に当たり得ます。そのときに備えて、規約の版と制定日を表示し、変更の手続を定めておきます。
規約の変更について「当社が変更後の規約を掲載した後に利用を続けた場合は、変更後の規約に同意したものとみなす」と書いただけでは、民法548条の4が定める変更の要件を満たしたことにはなりません。また、署名押印して現実に同意を得る申込書の型なのに、前文に「本規約に同意したものとみなされます」というウェブ規約と同じ書きぶりをすると、画一的な約款として運用しているという主張を招く一因にもなり得ます。署名欄があるなら、承諾の方法と契約の成立日(受託者が署名した日、又は承諾の通知を発した日)を書きます。
顧客が個人・開業前のとき:「事業者間契約」と書くだけでは足りない
規約の適用対象を「法人又は事業のために本サービスを利用する個人事業主」に限っていても、申込書に、申込者が事業のために申し込むことを確認する欄がなければ、その限定は確かめようがありません。消費者契約法でいう「消費者」とは、事業として、または事業のために契約をする場合を除いた個人のことで(同法2条1項)、特定商取引法の適用除外も「営業のために若しくは営業として」締結するものに限られます(同法26条1項1号)。いずれも名目ではなく実態で判断されます。
国民生活センターは2026年9月16日に、AI講座やSNS運用講座などのビジネス講座の相談が増えていることを公表し、「事業者間契約だから解約はできない」と言われた事例を紹介しています。内製化支援やアドバイザー支援を、これから発信を始める個人や副業を準備中の会社員に提供すると、外形上はSNS運用講座に近くなります。申込書に、申込者の区分(法人・個人事業主)、事業内容、開業届の有無又は開業時期、サービスを使う事業上の目的を記入・チェックする欄を設け、事業開始前の個人を受け付けない、又は消費者向けの別の規約で受ける、のどちらかを決めておきます。教える形の支援の契約は伴走サポート・内製化支援のページで扱います。
規約に入れる業務別の条項と、「チャットの一言」対策
申込書+規約の型では、規約に次のような業務別の条項を入れておきます。
業務別の条項の前提として、範囲外の業務の扱いも決めておきます。レビューした規約は、範囲外の業務について受託者が「見積りを提示することができます」と定めるだけで、顧客が見積りに応じないまま範囲外の作業を求め続けた場合の扱いがありませんでした。範囲外の業務は見積りに合意してから着手すること、合意がない限り受託者は着手する義務を負わないことを書いておきます。投稿物の本数を申込書で決める場合は、月の途中で始めたときの本数と、未消化分を翌月に繰り越すかどうかの欄も必要です。
- 撮影:撮影の変更・キャンセルの期限とキャンセル料、出演者・撮影場所の手配の主体、映り込む第三者への配慮。
- 出演者・音源:出演の同意の範囲と退職後の扱い、音源の選定方針と顧客指定の音源の責任(著作権と素材のページで解説)。
- PR表記・表示内容:表示内容の真実性と根拠資料は顧客の責任、受託者の確認の範囲、PR表記の判断主体。
- 成果の不保証:フォロワー数・再生数・売上を保証しないこと、目標値は努力目標であること。
- 実績公開・引抜き:制作物を実績として紹介できる範囲、受託者のスタッフ・クリエイターとの直接取引の制限(期間・範囲を限定する)。
- 契約条件の変更の方法:申込書・規約を変更する特約は、受託者の代表者又は指定した責任者が、特定の方法で合意したものに限る。
最後の点は見落とされがちです。レビューした規約は、申込書と規約の内容が異なれば申込書を優先し、「当社及び顧客が別途書面又は電磁的方法により合意した特約がある場合はその特約を優先する」と定めていました。「電磁的方法」に定義がないため、日常のチャットでの担当者のやり取りが、申込書・規約に優先する特約だと主張されるおそれがあります。投稿日の調整のような日常の連絡と、契約条件の変更とを区別して書いておきます。
合意の方法を限定する定めは、受託者を守るだけでなく、顧客にとっても、担当者の思いつきの依頼が契約の変更として扱われないという安心につながります。
このほか、申込書+規約の型で抜けやすいのが、お金の回収と契約の終わり方に関する一般条項です。レビューした規約は、未払のときの催告とサービス停止の手順を丁寧に定めていた一方で、遅延損害金の率、一部の滞納があったときに残りの料金の期限の利益を失わせる定め、受託者が返すべき金銭と未払料金を相殺できる定めがありませんでした。遅延損害金を定めなければ民法の法定利率によることになります。事業者間では年14.6%の約定も一般的に用いられますが、顧客が消費者と評価される場合は、年14.6%を超える部分は無効です(消費者契約法9条1項2号)。
契約終了後も効力を持たせる条項(秘密保持、個人データの削除・返還、精算、損害賠償、管轄など)を列挙する存続条項、解約通知や催告をどの宛先にどの方法で送れば届いたことになるかを定める通知条項、反社会的勢力の属性だけでなく暴力的な要求行為や不当な要求行為などの行為要件と、解除した側が損害を賠償しない旨を定める条項も、規約に入れておきます。規約の版と制定日を表示し、どの顧客がどの版に同意したかを後から特定できるようにしておくことも、規約型の運用では欠かせません。
顧客の側から見て不利すぎる条項も洗い出す
規約型の受注では、顧客の法務担当者が最初に読むのは、キャンセル料・責任の上限・再委託の条項です。顧客に重い金銭条項は紛争時に減額されやすく、受託者が自ら負担を引き受けた運用面の条項(実費を請求しない、協議が成立しなくても顧客の遅延としない、など)は文言どおりに適用されます。この組合せは受託者にとって最も不利です。
規約を公開する前に、顧客の目線で確かめること
- 運用開始後の解約料が、残存期間の全額になっていないか
- 受託者の責任には上限があり、顧客の責任には上限がない非対称になっていないか(なっているなら補償条項で説明できるか)
- 再委託を顧客に通知せずに行える定めになっていないか(アカウント権限を扱う業務では事前通知を求められやすい)
- 終了後に受託者が顧客の素材やデータを返還・削除する義務があるか
- 秘密情報・個人データの漏えいにも一律の上限がかかる定めになっていないか
顧客に重すぎる条項を緩め、受託者の過度な自己制約を解くことで、署名しやすく、有事に受託者を守る書類に近づきます。
申込書に設けておきたい欄(規約の既定値と組み合わせる)
- 申込者の区分(法人・個人事業主)、事業内容、開業届の有無又は開業時期、サービスを使う事業上の目的
- プランと対象SNS、投稿物の種別と本数、月の途中で始める場合の本数、未消化分の繰越しの有無
- 承認の要否、確認期限、確認依頼を送る連絡手段(チャットルーム・メールアドレス)
- 納品の有無と形式、制作データの提供の有無、実費の負担区分と事前承認の基準額
- 初期費用の支払時期、月額料金が前払か後払か、契約期間と更新の方法、解約の予告期間
- 契約条件の変更を合意できる責任者の氏名と連絡先
起きがちなこと:規約で受注を始めたとき
投稿前の承認の流れは投稿承認・炎上時の対応のページで、成果目標の書き方は成果報酬の決め方のページで解説しています。
よくあるご質問
申込書と利用規約で受注するのと、契約書を交わすのとでは何が違いますか?
申込書+規約の型は、顧客ごとの条件を申込書で決め、共通ルールを規約で決めるため、多くの顧客と効率よく契約できます。その代わり、規約が申込書に委ねた事項に記入欄がないと、条件が決まらないまま契約が成立してしまうため、受け皿の設計が大切です。
事業者間の契約なら、キャンセル料はいくらに設定してもよいのですか?
事業者間では合意した損害賠償額の予定が原則として尊重されますが、現実に生じ得る損害とあまりにかけ離れた違約金は、公序良俗に反するとして減額される可能性があります。顧客が消費者と評価される場合には、平均的な損害を上回る部分が消費者契約法によって無効になります。
SNS運用代行の規約は定型約款に当たりますか?
申込書で業務範囲・本数・料金・期間を顧客ごとに決める構造なら、定型約款に当たらない可能性が高いと考えられます。ただし、ウェブ上で多数の事業者に同じ条件で提供する形になると当たり得るため、規約の版の表示と変更手続を定めておきます。
規約に「使い続けたら変更に同意したものとみなす」と書いておけば、自由に変更できますか?
それだけでは足りません。定型約款に当たるときでも、変更が相手方の一般の利益に合うものか、契約の目的に反せず変更の必要性や内容の相当性の点で合理的なものでなければならず、効力が生じる時期を決めたうえで周知する手続も欠かせません。定型約款に当たらない場合は、個別の合意が原則です。
個人事業主として申し込んだ人にも、消費者契約法は適用されますか?
消費者に当たるかは名目ではなく実態で判断されます。事業の実態がほとんどない個人や、これから発信を始める個人が申し込んだ場合は、消費者と評価される余地があります。申込書で事業者であることを確認する欄を設けておきます。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引に必要な対応は、当事者の規模、顧客が事業者か個人か、契約内容、報酬の決め方などによって異なります。事務所の書類での扱いとして紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきたSNS運用代行・運用支援の契約書、申込書・利用規約、外注先との基本契約・発注書、キャンペーン規約・プライバシーポリシー、リーガルレビュー報告書などを、個別の依頼者・相手方が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月18日)。参考: e-Gov法令検索 / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会) / ステルスマーケティングに関する消費者庁の案内 / 景品規制の概要(消費者庁)